
不動産の売買契約や賃貸借契約を結ぶ際は、重要事項説明書を用いて、宅地建物取引士による重要事項説明が行なわれます。重要事項説明書には、不動産取引に関わる大切な情報が記載されているため、確認ミスがないように注意しましょう。
本記事では、重要事項説明書の概要や記載が必要な項目、チェックポイントなどについて紹介します。
Contents [目次を表示]
1.重要事項説明書とは
不動産取引における重要事項説明は、法律で定められた重要な工程で、この時に交付される書類が重要事項説明書です。
重要事項説明書には、取引する物件や取引の条件に関することが詳しく書かれており、その後の契約を適切に判断するために必要です。
この章では、以下の項目に分けて、重要事項説明、および重要事項説明書について解説します。
- 重要事項説明とは物件を取得する人への重要な説明
- 重要事項説明は不動産会社の業務
- 売主や貸主には説明されない場合もある
- タイミングは契約が成立するまでの間
- オンラインでのIT重説が可能に!
1-1.重要事項説明は不動産会社の業務
重要事項説明を行う義務は不動産会社にあり、書類の作成、実際の説明も不動産会社側が行います。
実際の説明業務は、宅地建物取引士という有資格者によって行われます。
例えば、不動産売却での”売主”や、賃借を考える”貸主”が特別に対応することはありません。
1-2.重要事項説明とは物件を取得する人への重要な説明
重要事項説明は、宅地建物取引業法第三十五条に基づき、不動産会社(宅地建物取引業者)が買主(借主)に対して行うことが義務付けられています。
要は、不動産を取得する側が、物件や条件に問題がないかを確認するために行う説明です。
不動産の交換では、両当事者が新たに不動産を取得することになるので、両者に重要事項説明が行われます。
その売買、交換又は貸借の契約が成立するまでの間に、宅地建物取引士をして、少なくとも次に掲げる事項について、これらの事項を記載した書面(第五号において図面を必要とするときは、図面)を交付して説明をさせなければならない。
出典:“宅地建物取引業法(宅建業法)第三十五条”. e-Gov法令検索(参照2025-07-24)
具体的には、以下の流れで説明を行います。
- 契約前に買主(借主)に重要事項説明書を交付
- 宅地建物取引士が口頭で説明
1-3.売主や貸主には説明されない場合もある
重要事項説明は不動産を取得する側に対する説明です。
不動産を譲る側の売主(貸主)には、重要事項説明の義務はないため、省略される場合もあります。
ただ、不動産売買では、売主・買主と不動産会社が集まって重要事項説明を行うのが一般的です。
売主(貸主)も、買主(借主)と同じ重要事項説明を受けていれば、認識の相違が起こりにくく、トラブルリスクの軽減につながります。
1-4.タイミングは契約前の1時間程度
重要事項説明は、不動産の売買契約や賃貸借契約が成立するまでの期間に行なうことが法律で定められています。
重要事項説明とその後の契約が同日中である必要はありませんが、実務上は多くの場合で同日中に行われています。
出典:「国土交通省. ”重要事項説明について”.2008-12-4」.(参照2025-07-25)を元に、HOME4Uが独自に作成
重要事項説明にかかる時間は、1時間程度です。
次項で紹介するIT重説の場合、国土交通省の調査よると、所要時間30分以上1時間未満が41.9%、30分未満が19.7%であったと報告されています。
1-5.オンラインでのIT重説が可能に!
IT重説とは、ビデオ通話などで行う重要事項説明のことです。
近年の法整備によって、事前に重要事項説明書を送付しておくことで、売買や賃貸に伴う重要事項説明をオンラインでできるようになりました。
契約日と同日中の重要事項説明が心配な時などは、契約の相手方と不動産会社に、IT重説が検討できないか相談してはいかがでしょうか。
2.重要事項説明書に記載される項目
重要事項説明書には、宅地建物取引業法(宅建業法)第三十五条で定められた内容を記載する必要があります。
重要事項説明書に記載する必要がある事項は、大きく分けて次の4項目です。
- 不動産会社の情報
- 取引物件に関わる事項
- 取引条件に関わる事項
- その他の事項
各項目でどのような内容が記載されているのか詳しく見ていきましょう。
2-1.不動産会社の情報
重要事項説明書には、売主(貸主)となる不動産会社(宅地建物取引業を営む不動産会社や個人)の情報が必ず記載されていなければなりません。
具体的には、以下のような情報が必須です。
不動産会社の情報 |
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重要事項説明の際、宅地建物取引士は、重要事項説明書と併せて「宅地建物取引士証」を提示する必要があります。
出典:“重要事項説明に必要な要素”. 国土交通省. (参照2024-03-21)をもとに、HOME4Uが独自に作成
2-2.取引物件に関わる事項
取引物件とは、取引の対象となる土地や建物などの不動産のことです。
取引物件に関わる事項として記載される内容には、次の6つが挙げられます。
- 土地や建物に関わる事項
- 登記に関わる事項
- 法令に基づく制限
- インフラの整備状況
- 災害警戒区域に関わる事項
- 建物の性能評価や調査・診断に関わる事項
2-2-1.土地や建物に関わる事項
重要事項説明書には、取引対象となる土地・建物の所在地、面積など、基本的な情報が記載されます。土地と建物で、記載される内容には以下のような違いがあります。
土地に関する情報 |
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建物に関する情報 |
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重要事項説明の際、土地に関する内容は地図や公図などを用いて再度確認されます。
建物については必要に応じて図面と照らし合わせながら、記載内容に誤りがないか確認されます。
2-2-2.登記に関わる事項
登記に関わる事項は、基本的に登記事項証明書(登記簿謄本)の権利部の内容が転記されています。
なお、売買により抵当権が抹消されるような場合でも、現時点で登記に記録されている内容はすべて重要事項説明書に記載されていなければいけません。
登記事項証明書(登記簿謄本)について詳しく知りたい方は「登記簿謄本(登記事項証明書)とは?種類や記載内容、取得方法」をご覧ください。
2-2-3.法令に基づく制限
重要事項説明書には都市計画法や建築基準法など、取引対象の不動産に関する法律上の制限についても記載されます。
都市計画法と建築基準法に基づく制限には、主に以下のようなものがあります。
都市計画法 |
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建築基準法 |
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2-2-4.インフラの整備状況
インフラとはインフラストラクチャーの略語で、一般的には産業や生活における基盤を指す言葉として用いられます。
重要事項説明書では、生活に関連するインフラ(電気・ガス・飲用水・下水道)について、以下のような情報が記載されます。
インフラに関する情報 |
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2-2-5.災害警戒区域に関わる事項
災害警戒区域とは、災害により住民の生命・身体に危害をおよぼすリスクがあると認められた土地(区域)のことです。
重要事項説明書には、土砂災害や津波災害のほか、水災害履歴や液状化予測など、その土地(区域)で警戒すべき災害について記載されます。
重要事項説明の際は、取引対象の物件がハザードマップ(自然災害が想定される区域や避難場所などが表示された地図)上でどのような位置に所在しているかも説明を受け、確認しておきましょう。
2-2-6.建物の性能評価や調査・診断に関わる事項
重要事項説明書には、建物状況調査(インスペクション)、住宅性能評価、耐震診断などの調査や診断の実施状況、結果が記載されます。
各項目でどのような内容が記載されるのかについては、調査や診断の種類により以下のように異なります。
建物状況調査(インスペクション) |
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住宅性能評価 |
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耐震診断 |
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なお、新築以外の建物では、過去1年以内の建物状況調査(インスペクション)の有無や、調査結果の概要を記載する必要があります。
建物状況調査(インスペクション)の詳しい実施方法や注意点については、「不動産のインスペクションとは?メリット・デメリット、方法、費用を解説」をご覧ください。
2-3.取引条件に関わる事項
取引物件に関わる事項では、既存の情報がそのまま記載されるのに対し、取引条件に関わる事項では売主・買主間で取り決めた条件に沿った内容が記載されます。
取引条件に関わる事項として記載される内容には、以下の5つが挙げられます。
- 取引代金に関わる事項
- 契約解除に関わる事項
- 手付金の保全措置の定め
- 金銭の貸借に関わる事項
- 契約不適合責任に関わる事項
2-3-1.取引代金に関わる事項
取引代金に関わる事項では、買主・売主間で合意した各種取引代金について記載されます。
例えば、不動産売買では以下のような項目に関して、金額や代金授受の時期について記載されます。
不動産売買の場合の取引代金の項目 |
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2-3-2.契約解除に関わる事項
契約解除に関わる事項では、契約解除の条件や方法、解除する場合の取り決めなどについて記載されます。
契約違反があった場合の違約金や損害賠償についても記載されますが、詳しい条件は対象取引の契約書にまとめられているケースが一般的です。
重要事項説明の際は、契約書と照らし合わせながら、重要事項説明書の記載内容に相違がないか確認するとよいでしょう。
2-3-3.手付金の保全措置の定め
手付金の保全措置とは、宅地建物取引業を営む不動産会社や個人が売主となる場合に、状況に応じて買主への手付金の返還が認められる措置のことです。
買主から一定の金額を超える手付金が支払われる取引では、手付金の保全措置を設けることが法律で義務付けられています。
重要事項説明の際には、手付金の保全措置の有無や概要について、宅地建物取引士から説明があります。
2-3-4.金銭の貸借に関わる事項
金銭の貸借に関わる事項では、住宅ローンなどの不動産会社による融資の斡旋(あっせん)の有無や、融資承認を取得する期日といった、融資に関する情報が記載されます。
融資に関する情報としては、主に以下の内容が記載されます。
融資に関する情報 |
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2-3-5.契約不適合責任に関わる事項
契約不適合責任とは、契約内容に反している事実が認められたとき、売主が負うべき責任のことです。契約不適合責任は、「担保責任の履行」と表現される場合もあります。
この項目では、主に以下のような内容が記載されます。
契約不適合責任(担保責任の履行)に関する内容 |
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契約不適合責任については、「契約不適合責任(瑕疵担保責任)とは?2020年の法改正による変更点やトラブル回避のポイントを解説」をご確認ください。また、不動産における瑕疵については、「瑕疵とは?種類や具体例、不動産取引におけるトラブルを防ぐ方法も解説」をご確認ください。
2-4.その他の事項
取引の内容によっては、取引物件や取引条件のほか、その他の事項として以下の内容が記載される場合があります。
- 区分所有建物に関わる事項
- その他の特約事項
2-4-1.区分所有建物に関わる事項
取引物件が分譲マンションのような区分所有建物の場合、「建物の区分所有等に関する法律(区分所有法)」に基づいた重要事項を説明する必要があります。
区分所有建物に関する重要事項としては、以下が挙げられます。
区分所有建物に関する重要事項 |
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区分所有建物については、「区分所有とは?区分所有者が知っておくべき権利や禁止事項を解説」の記事を併せてご覧ください。
2-4-2.その他の特約事項
その他の特約事項では、ここまでに記載された内容以外で、売主(貸主)から買主(借主)へ伝えておくべき重要事項がまとめられています。
具体的には、近隣環境や独自の費用負担、事前に承知してもらいたい容認事項などが記載されます。
特約事項の例 |
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(※)墓地、火葬場、ゴミ焼却場、下水処理場、危険物を製造する工場など
特約事項には、対象物件の利用に関わる独自の重要事項が記載されているケースが多いため、細部までよく確認することが大切です。
3.重要事項説明書でチェックするべきポイント
重要事項説明書の内容は、基本的にすべて目を通す必要がありますが、なかでも必ずチェックしておきたいポイントがあります。
どのような点をチェックすればいいのか、重要事項の項目ごとに見ていきましょう。
3-1.取引物件に関わるチェックポイント
取引物件に関わる部分では、主に以下の内容を確認しましょう。
- 登記事項証明書(登記簿謄本)や公図などと比較して記載内容に誤りがないか
- 法令に基づく制限に問題がないか(将来的な建て替えや増改築の制限など)
- インフラの整備状況や費用負担について明確に記載されているか
- 土地や建物の現況が明確に記載されているか
- マンションの場合、マンション管理規約や使用細則の範囲まで確認できるか
- 水害(洪水、雨水出水、高潮)ハザードマップの記載状況 など
3-2.取引条件に関わるチェックポイント
取引条件に関わる部分では、事前に取り決めた内容に相違がないかも含めて、以下のような内容を確認しましょう。
- 代金以外の必要な金銭の目的や金額、授受の時期などが明確に記載されているか
- 手付金や契約解除の条件が適切かつ明確に記載されているか
- 契約不適合責任に関わる措置内容が明確に記載されているか
- 不明瞭な特約や容認事項が記載されていないか
なかでも、特約や容認事項は認識の相違が発生しやすい部分でもあるため、契約後のトラブルを避けるためにもしっかり確認することが大切です。
特約事項や容認事項にどのような記載がされるのか、関連団体が公表する文章例なども併せてチェックしておくとよいでしょう。
4.重要事項説明書を確認する際の注意点
あとから、「言った」「言わない」「聞いていない」「知らない」といったトラブルにならないように、重要事項説明書を確認する際は、買主(借主)、売主(貸主)ともに以下の点に注意しましょう。
4-1.不明点や疑問を抱えたまま契約に進まない
重要事項説明を受け、契約を締結すると、重要事項説明書の内容に承諾したものとみなされます。
契約後のトラブルを避けるためにも、重要事項説明書の内容は細部まで熟読・理解しておくことが大切です。
記載内容や説明内容に不明点・疑問点があれば、必ず契約に進む前に宅地建物取引士(不動産会社)や専門家に相談しましょう。
なお、2021年(令和3年)3月30日より、オンラインでの重要事項説明(通称:オンライン重説、IT重説)が可能となり、近年は重要事項説明書が電子書面で発行される機会も増えてきました。
オンラインで重要事項説明が実施される場合、対面ではなくビデオ通話によって重要事項説明を受けるため、聞き間違いや聞き逃しに注意が必要です。
4-2.事前に重要事項説明書のコピーをもらっておくと安心
不動産会社に依頼すると、重要事項説明が実施されるタイミングより早く、重要事項説明書のコピーをもらえる場合があります。
事前に重要事項説明書のコピーを受け取り、内容に目を通しておくことで、前もって不明点を確認したり、重要事項説明当日に聞きたい内容をまとめたりできるでしょう。
オンライン重説が採用され重要事項説明書が電子書面となる場合でも、必要があれば紙での書面発行が可能かどうか確認しておくとよいでしょう。
まとめ
不動産の重要事項説明書は、売買契約や賃貸借契約の締結前に、取引に関する重要事項を買主(借主)に説明するためにまとめた書面です。
取引対象となる物件情報や取引条件のほか、不動産の利用に関わる個別の要件が記載されるため、記載内容は必ず契約前に細部まで確認しましょう。
買主(借主)だけでなく、売主(貸主)も重要事項説明書の内容を把握しておくことで、その後の契約をスムーズに進められます。
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