法定地上権とは?成立要件や地上権、賃借権との違い、地代の決め方などを解説

法定地上権とは 成立要件などの基礎知識

住宅ローンを返済できなくなり競売にかけられた場合など、土地と建物の所有者が別々になることがあります。その際に発生する権利が、「法定地上権」です。

本記事では、法定地上権の内容や地上権・賃借権との違い、成立要件について解説します。併せて、よくある質問をもとに、ケースごとの法定地上権の考え方も紹介します。

この記事を読むと分かること
  • 法定地上権の内容や地上権・賃借権との違い
  • 法定地上権の成立要件
  • ケース別の法定地上権の考え方
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1.法定地上権とは?

売家

法定地上権とは、競売などが原因で土地と建物の所有者が別々になってしまった場合に、建物所有者が他人の土地を制限付きで利用できる権利のことです。法定地上権は、当事者間の合意の有無に関係なく、民法や民事執行法の規定により自動的に発生します。

建物所有者は、土地所有者に地代を支払うことで、他人の土地を法定地上権の発生から30年間利用できます。

30年が経過した際に土地所有者が更新を拒絶しなければ、さらに20年間土地の利用を続けられます。そして、20年が経過したあとは、10年ごとに利用可能期間が更新されていきます。

なお、以下のような「正当な理由」がなければ、土地所有者は更新を拒絶できません。

  • 建物がまったく使用されておらず、建物所有者に土地を貸す必要性がない
  • 建物所有者が地代を長期間滞納している
  • 土地所有者と建物所有者とで法定地上権の解除に合意している

実際は、建物所有者に立ち退いてもらうために、土地所有者が建物所有者へ高額な立退料を支払うケースが少なくありません。

参考:
“第127条関係 法定地上権等の設定”. 国税庁
“民法第三百八十八条”. e-Gov法令検索
“民事執行法第八十一条”. e-Gov法令検索
“借地借家法第二章第一節”. e-Gov法令検索

2.法定地上権はなぜ必要?

建物の下には土地が存在しますが、建物の所有権しか持っていない場合、土地を利用することはできません。

土地を利用できなければ、建物を所有している意味がなくなるうえに、建物を土地から撤去する必要も出てきます。さらに、建物を撤去しなければ、建物所有者は土地の不法占拠者とみなされてしまうこともあるでしょう。

これでは、公正な手続きを経て建物を取得しているのに、確実に不利益を被るという矛盾が生じてしまいます。法定地上権は、こうした状況を回避して建物所有者の利益を守るために重要なものです。

3.法定地上権と地上権、賃借権の違い

ここでは、法定地上権と地上権、賃借権の違いを解説します。

3-1.法定地上権と地上権の違い

法定地上権と地上権は、「他人が所有する土地を利用する権利」という点では同じです。しかし、土地所有者と建物所有者の間で、地上権についての合意があるかどうかという点で異なります。

前述のとおり、法定地上権は合意の有無に関係なく、法律に基づき自然に発生します。一方の地上権は、土地所有者と建物所有者の協議により、合意したうえで権利を設定するのが特徴です。

133_2(法定地上権とは)

133_3(地上権とは)

地上権について詳しくは、「地上権とは?土地購入前に知っておきたい賃借権との違いや注意点」をご覧ください。

3-2.法定地上権と賃借権の違い

賃借権も「他人が所有する土地を利用する権利」ではあるものの、法定地上権と比べると、その効力が弱いのが特徴です。

具体的には、土地の賃借権(借地権)は、登記しない限り土地を借りていることを第三者に主張できません。しかし、土地の所有者に対する登記請求権が認められないため、事実上は登記するのが困難です。結果として、土地を借りていることを第三者に主張するのも難しくなります。

また、借りている土地上の建物を建て替えたり、売却したりする際には、土地所有者の許可を得なければならない点にも注意が必要です。

133_4(賃借権とは)

一方で法定地上権や地上権では、土地の所有者に権利の登記を請求でき、その権利を第三者に主張できます。加えて、土地所有者から許可を得ていない状態での建て替えや売却も可能です。

ほとんどのケースでは、建物所有者にとって有利となるのが法定地上権、土地所有者にとって有利となるのが賃借権といえるでしょう。

4.法定地上権の4つの成立要件

数字

法定地上権を成立させるには、要件である以下4つを満たさなければなりません。

  • 抵当権設定時に土地に建物が建っていること
  • 抵当権設定時の土地と建物の所有者が同じであること
  • 土地と建物の片方または両方に抵当権が設定されること
  • 抵当権の実行により、土地と建物の所有者が別になっていること

ここでは、各要件の内容を見ていきましょう。

4-1.抵当権設定時に土地に建物が建っていること

抵当権とは、住宅ローンなどの返済が滞ったときに備えて、金融機関や保証会社が土地・建物などを担保とする権利のことです。

抵当権が設定される際に、土地上に建物が建っていなければ、法定地上権が成立することはありません。具体的には、抵当権がすでに設定されている更地に建物を建て、その建物が競売にかけられた場合は、法定地上権が成立しないことになります。

4-2.抵当権設定時の土地と建物の所有者が同じであること

抵当権が設定される際には、前項の要件に加えて、「同一人物が土地と建物を所有していなければならない」という要件もあります。

そもそも土地所有者と建物所有者が異なる場合は、建物を利用するために地上権や賃借権がすでに設定されているはずです。したがって、抵当権設定時に土地所有者と建物所有者が異なるケースでは、法定地上権は不要だと判断されます。

4-3.土地と建物の片方または両方に抵当権が設定されること

法定地上権を成立させるには、土地と建物のどちらか、またはどちらにも抵当権が設定されなければなりません。

ただし、例外として抵当権の有無に関係なく法定地上権が成立するケースもあります。具体的には「公売」などが原因で、土地所有者と建物所有者が別々になった場合です。

公売とは、納税義務者が納税しないときに、国や地方公共団体が納税者の財産を差し押さえて売却し、売却代金を税金の支払いに充当する制度のことです。

参考:“公売に参加するには”. 国税庁

4-4.抵当権の実行により、土地と建物の所有者が別になっていること

抵当権の実行、すなわち競売などにより、土地所有者と建物所有者が別々になっていることも要件の一つです。

土地所有者と建物所有者が同一のままの場合は、自分の建物と土地を利用するだけなので問題は生じず、法定地上権は必要ありません。

5.法定地上権に関するよくあるQ&A

教会と家

最後に、法定地上権に関するよくあるQ&Aを紹介します。

5-1.建物が未登記でも法定地上権は成立する?

建物が登記されていなくても、先述した4つの成立要件を満たしていれば、法定地上権は成立します。

抵当権設定時に建物が建っていれば、登記の有無に関係なく、土地の抵当権者は建物が存在する前提で担保価格などを評価しているためです。

5-2.土地や建物を複数人で共有している場合は?

前提として、ここでいう「共有」には、大きく分けて以下の3パターンがあります。

  • 土地と建物を共有している
  • 土地のみを共有している
  • 建物のみを共有している

また、抵当権の設定方法によっても、状況が異なる点に注意が必要です。

最もシンプルなパターンとして、土地と建物が共有で、土地と建物の両方かつ全部に抵当権が設定された場合は、法定地上権が成立します。共有者の人数は問われず、すべての所有者が法定地上権の権利・義務を有します。

一方、法定地上権が成立しないケースの例としては、AとBが土地と建物を共有しており、Aの土地持分に抵当権が設定・実行された場合です。競売などの結果、BとC(競落人)が土地を共有し、AとBが建物を共有する状況となります。

133_5(法定地上権の成立例・不成立例)

ここで法定地上権が成立すると、土地の価値が下がるなど、Bからすれば不当な損失が発生してしまうでしょう。抵当権の設定・実行に関与しないBが不利益を被らないよう、このようなケースでは法定地上権が成立しないとされています。

参考:“最高裁判所判例”. 裁判所. (参照2024-04-01)をもとに、HOME4Uが独自に作成

5-3.建物所有者が支払う地代はどのように決まる?

建物所有者から土地所有者へ支払う地代の金額は、土地所有者と建物所有者との話し合いで決定します。法律で定められた基準はないため、近隣の相場を参考にするのが一般的です。

協議が合意にいたらなければ、裁判で地代を決めるケースもあります。

5-4.法定地上権が成立した建物を再築したらどうなる?

法定地上権が成立した建物を取り壊すと、原則的に法定地上権は消滅します。そのため、土地所有者の許可なく再築(建て替え)をした場合は、不法占拠とみなされてしまいます。

なお、住宅の取り壊し費用については「住宅の取り壊し費用っていくらなの?相場や発注の注意点を解説」をご覧ください。

まとめ

法定地上権は、競売などにより土地と建物の所有者が別々になってしまった場合に、建物所有者が他人の土地を少なくとも30年間は利用できる権利です。当事者間の合意の有無に関係なく、法律に基づき自然に権利が発生します。

ただし、建物所有者から土地所有者へ支払う地代の金額に関しては、原則として当事者間の話し合いで決定します。

なお、土地や建物を複数人で共有している場合は、共有方法や抵当権の設定方法によって法定地上権が成立しないケースがある点に注意しましょう。

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