
「不動産買付証明書」は、購入を希望する側が売主側に購入意思を伝えるために作成する書類で、昔から続く不動産取引の商慣習の一つです。
本記事では、不動産買付証明書の役割や法的効力、主な記載内容や作成のメリット・デメリットなどについてわかりやすく解説します。不動産売買を円滑に進めるためにも、ぜひ参考にしてください。
- 不動産買付証明書の基礎知識
- 不動産買付証明書に記載すべき内容
- 不動産買付証明書のメリット・デメリット
- 「何から始めたらいいか分からない方」は、まず不動産会社に相談を
- 「不動産一括査定」で複数社に査定依頼し、”最高価格(※)”を見つけましょう ※依頼する6社の中での最高価格
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1.不動産買付証明書とは?
不動産買付証明書とは、不動産取引において購入を希望する側が準備する書類の一つです。「購入申込書」や「買付申込書」とも呼ばれます。
購入希望者が不動産会社の担当者とともに物件を内覧したうえで、売主に不動産買付証明書を提出するという流れでやりとりします。仲介を挟んで取引する場合は、不動産会社を通して売主に渡すケースが多いでしょう。
1-1.不動産買付証明書の役割
不動産買付証明書の主な役割は、購入を希望する側から売主側に対して「購入の意思」を示すことです。
不動産取引の多くでは、数千万~数億円単位のお金が動きます。物件や地域によって売買価格は変動しますが、大金が動く以上、慎重にやりとりしなければなりません。
口頭だけでも購入の意思表示および売買契約の締結は可能ですが、購入の意思をより明確に示せるよう、書面を通じて伝えることが商慣習となっています。購入希望者が「私はこの物件を買いたいと考えています」という意思を購入希望価格などと一緒に売主に通知し、細かい条件を話し合うという流れが基本です。
つまり、不動産買付証明書を提出するという行為が、実際の売買交渉へと進むための第一歩となります。
1-2.不動産買付証明書の法的効力
売買契約の内容を証明する「不動産売買契約書」とは異なり、不動産買付証明書に法的効力はありません。取引にあたって「必ず提出しなければならない」という義務もないため、あくまで昔から続いている商慣習といえます。
また、仮に提出しても、その物件を「必ず購入しなければならない」という拘束力は生じません。つまり、書類を渡したあとで購入をキャンセルしても、原則として購入の意思表示をした側に罰則や違約金などのペナルティは発生しないということです。
しかし、不動産買付証明書で意思表示をすれば、売主側は交渉スケジュールを調整したり、広告の出稿を止めたりするなど、取引成立に向けて準備を進めてくれます。そのため、気軽に提出すべきものではありません。
また、提出後に交渉を進めて当事者間の信頼関係が構築されたあと、購入の意思表示をした側が契約直前などにキャンセルして信頼を裏切った場合、売主側は「契約締結上の過失」を理由とする損害賠償請求ができます。
法的効力はないものの、双方にある程度のリスクが生じることを覚えておきましょう。
参考:“売買契約における契約締結上の過失”. 公益社団法人 全日本不動産協会
1-3.不動産買付証明書の書式ルール
不動産買付証明書の書式には、正式な決まりがありません。記載すべき項目はありますが、法令で定められた絶対的なルールが存在しないので、見た目や項目数はそれぞれ異なります。
ただし、書式は不動産会社で用意するケースがほとんどであり、一から作成するケースはごく稀です。Word形式やPDF形式のテンプレートが一般的なので、作成自体は難しくありません。
2.不動産買付証明書の記載内容
不動産買付証明書を作成する場合、以下のような内容を記載します。
- 購入希望価格
- 物件情報
- 購入希望者の個人情報
- 手付金
- 中間金
- 残代金
- 有効期限
- 引き渡し希望日
- 融資情報
- その他
それぞれ詳細をまとめました。
2-1.購入希望価格
物件の購入希望価格は、不動産買付証明書で最も注目されるポイントです。不動産関連のWebサイトやチラシに載っている価格ではなく、あくまで購入を希望する側が望む金額を記載します。
実際の売買価格については、売主と交渉しながら決めますが、購入希望価格から大幅に値下げしてもらうことは一般的に困難です。また、ほかの購入希望者が自分より高い金額を提示している場合も、値下げは難しいとされています。
多くの売主は売買価格の最低ラインを決めているので、その金額に近い範囲なら交渉の余地はあります。一方、対象の物件をどうしても購入したいなら、できるだけ高めの金額を提示しましょう。
なかなか価格を決められない場合、不動産会社に相談するのも一案です。資産価値や相場を踏まえて、適切な金額を教えてくれるでしょう。
2-2.物件情報
確実に取引を進めるため、購入したい物件に関する情報を記載します。主な情報をまとめたので、以下も併せてご確認ください。
- 所在地
- 建物の名称
- 建物の構造(木造、鉄筋コンクリート造など)
- 延床面積
- 家屋番号
- 地番
- 地目
わからない情報があれば、不動産会社に連絡してみましょう。
2-3.購入希望者の個人情報
購入希望者の個人情報は、売主にとって「この方に大切な資産を売却しても問題ないか」を判断する要素の1つです。信頼関係を築くためには、以下のような情報を伝える必要があります。
- 氏名
- 住所
- 職業
- 勤務先
- 年収
- 預貯金 ※自己資金を潤沢に保有している場合
年収については、会社員や公務員といった給与所得者なら「源泉徴収票の支払金額」を、フリーランスなどの個人事業主なら「収入の合計金額」を記載します。
また、自己資金を潤沢に保有している場合、支払い能力のアピールにつながるため、具体的な金額を記載しましょう。
2-4.手付金
手付金とは、売買契約を締結するにあたって購入希望者が売主へ預けるお金です。頭金と似ていますが、手付金は契約時において支払い義務があり、のちほど売買価格の一部に加算されます。
手付金の相場は売買価格の5~10%程度ですが、さらに上乗せすることで「価格が多少高くても構わない」と購入意思の強さをアピールできます。
また、契約締結後でも物件の引き渡しや残代金の支払いが完了していないなら、購入希望者は手付金を放棄して違約金代わりにすれば契約解除が可能で、売主は手付金の倍額を支払えば契約解除が可能です。
なお、宅地建物取引業を営む不動産会社や個人と直接取引する際、手付金が一定金額を超えている場合には、手付金等の保全措置が必要となります。
- 建築済みの物件:手付金等の額が売買価格の10%超もしくは1,000万円超
- 建築途中の物件:手付金等の額が売買価格の5%超もしくは1,000万円超
ただし、保全措置を講じていても手付金等の額は売買価格の20%が上限です。もし購入希望者が手付金を放棄する場合、20%を超える部分は返還してもらうことができます。
2-5.中間金
中間金とは、売買契約締結後から物件の引き渡しまでの間に、買主から売主へ前払いするお金のことです。別名、「内金」「内入れ金」とも呼ばれます。
手付金は、契約の義務が履行されたあとで売買価格の一部に充当されますが、中間金は、支払った時点で充当される点が異なります。この両者を区別できるよう、契約時に明確化することが必要です。
なお、中古物件を購入する際には、支払い不要のケースもあります。
2-6.残代金
残代金とは、購入希望価格から手付金・中間金を差し引いた金額のことを指します。物件の引き渡しの際に、買主は残代金と引き換えに鍵を受け取るのが一般的です。
買主が住宅ローンを利用している場合は、借入先の金融機関などに買主、売主、不動産会社の担当者、司法書士が集まり、所有権移転登記に必要な書類のやりとりや融資が実行され、鍵の受け渡しと同時に残代金の支払いを完了します。
なお、所有権移転登記については、「所有権移転登記とは?どのタイミングで実施する?手続きと必要書類も解説」「所有権移転登記の費用相場はいくら?シーン別の金額目安を紹介」「所有権移転登記は自分でできる?不動産売買・相続時などの必要書類や手続きの流れ」で詳しく解説しています。
2-7.有効期限
不動産買付証明書に法的効力はないものの、有効期限を設定していないと、売主からの返事をいつまでも待つ事態に陥る可能性があります。そのため、全体的なスケジュールを踏まえて、事前に有効期限を決めておくことが大切です。
有効期限に関して特別なルールはありませんが、通常は1~2週間程度、長くても1ヵ月程度で設定されます。どれくらい設けるべきか迷う際は、不動産会社に相談しましょう。
購入希望者が有効期限を定めて不動産買付証明書を提出することで、売主は売却意思を示すための「売渡承諾書」を提示します。
なお、購入希望者が自宅を売却したうえで新しい物件を購入する場合は、この有効期限に合わせて売却活動を進めなければなりません。もし自宅の売却が遅れると、ダブルローン(二重ローン)のリスクが高まります。
2-8.引き渡し希望日
物件の引き渡し希望日には、各プロセスの希望スケジュールも併せて記載しましょう。引き渡しまでのスケジュールを明確化すれば、購入希望者が求めていることを売主へ伝えやすくなるため、スムーズに取引できます。
ただし、記載したからといって、売主が必ずしも希望どおりに対応してくれるとは限らないため、余裕のあるスケジュールを立てたほうがよいでしょう。
2-9.融資情報
住宅ローンで物件を購入する場合、借入先の金融機関や融資を受ける金額についても記載します。
もし借入先が決まっていない場合には「未定」とし、申し込み候補をいくつか記載しておきましょう。「未定」の記載がなければ、不動産会社から金融機関とやりとりしたことを証明するよう求められるかもしれません。
また、書式によっては「融資特約」の項目が設けられている点にも注意が必要です。融資特約とは、金融機関から融資を断られた際、売買契約を白紙撤回(無効化)できる約束のことです。
収入や健康状態によっては、住宅ローンの審査に落ちてしまうケースも想定されるため、融資特約の項目がなくても、その他の項目に「融資特約でお願いします」という一文を記載しておくと安心です。
2-10.その他
上記で紹介した内容以外に伝えたい条件や要望があれば、その他の項目にまとめて記載しましょう。例えば、農地だった土地を購入する場合、売主に対して「農地転用許可が下りたら契約します」といった条件を指定します。
また、自分の資産状況や信用力についてアピールしても構いません。具体的には、「大企業の管理職を務めている」「〇〇銀行から今まで3回融資を受けている」といった内容が有利に働く可能性があります。
3.不動産買付証明書のメリット
不動産買付証明書を作成する主なメリットは、以下のとおりです。
- 物件取得の可能性が高まる
- 有益な情報を入手しやすい
- 交渉をスムーズに進めやすい
購入を希望する側と売主側、双方の視点を踏まえて、各メリットの概要を解説します。
3-1.購入を希望する側のメリット|物件取得の可能性が高まる
人気物件は当然ながら購入希望者が多いため、必ずしも購入できるとは限りません。高めの金額を提示していても、自分が選ばれない可能性は十分あります。
しかし、不動産買付証明書を提出することで、購入の意思をアピールできるので、物件を取得できる確率もアップします。あくまで意思表示が目的であり、細かい部分は交渉で調整するため、売主側に遠慮せず自分の希望をはっきりと伝えましょう。
ただし、購入希望価格が相場より大幅に低かったり、無理難題を要求したりすると、売主側から疑念を抱かれて交渉決裂となる恐れもあります。したがって、常識の範囲内で希望を伝えるのがポイントです。
3-2.購入を希望する側のメリット|有益な情報を入手しやすい
物件がなかなか売れない場合には、売主が価格を下げるケースも珍しくありません。その際、不動産買付証明書を出した購入希望者は、優先的に値下げ情報を得られる可能性があります。
不動産買付証明書を提出した段階で交渉できなくても、売主側からオファーが来れば、購入を希望する側は有利な条件で交渉しやすくなります。
物件が売れない状況が長期間続くと、売主の態度も軟化してきます。さらに、不動産会社も「早めに売買を成立させたい」と考えるため、値下げの可能性が高まるのです。
また、希望の物件を購入できなかった場合でも、不動産会社が不動産買付証明書の内容をもとに、ほかの物件に関するお得な情報を教えてくれるケースもあります。ノーマークの物件が自分のニーズと合致することも考えられるため、こまめに情報をチェックしたいところです。
3-3.売主側のメリット|交渉をスムーズに進めやすい
不動産買付証明書があれば、売主は購入希望者の購入意思の強さを確認できます。そして、具体的な要望やアピール内容をもとに、誰と優先して交渉すべきかを見極めることが可能です。
また、購入希望価格や引き渡し希望日を売主側が事前に確認できるため、交渉をスムーズに進めやすくなります。
4.不動産買付証明書のデメリット
不動産買付証明書にはメリットがある一方で、購入を希望する側には以下のようなデメリットも存在します。
- 交渉が後回しになる可能性がある
- 提出後の条件変更は難しい
トラブルを避けるために、デメリットもきちんと把握しておきましょう。
4-1.購入を希望する側のデメリット|交渉が後回しになる可能性がある
人気物件では、ほかの購入希望者が提出した不動産買付証明書と比較されます。もしほかの購入希望者のほうが良い条件を提示していた場合、売主はそちらと優先的に交渉したいと考えるため、自分の順番が後回しになってしまうかもしれません。
また、無理な条件を提示した場合、売主や不動産会社の心証が悪くなってしまうことも考えられます。最悪の場合、交渉自体を断られて購入するチャンスを失いかねないため、条件はよく考えて記載すべきです。
4-2.購入を希望する側のデメリット|提出後の条件変更は難しい
不動産買付証明書は法的効力こそありませんが、購入意思を書面ではっきりと示す性質上、当事者間の信頼関係にかかわります。一度提出してから安易に条件を変えると、トラブルに発展しかねないので、提出後の修正はできないと考えるべきでしょう。
また、条件変更が認められないことを理由に不動産買付証明書を取り下げると、取引の機会も失ってしまいます。あらかじめ内容をしっかり精査し、修正不要の状態で提出したいところです。
5.売主が提出する売渡承諾書とは?
売渡承諾書とは、売主側が準備する書類の一つで「売却の意思」を示すためのものです。
購入を希望する側から不動産買付証明書を受理し、内容にすべて納得できたら、今度は売主側から売渡承諾書を提出するという流れです。この書類を受け取った購入希望者は、売買の交渉権を得たことになります。
不動産買付証明書と同様に、売渡承諾書も法的効力を持たないことが特徴です。そのため、交渉の結果を踏まえて書類を取り下げても、原則として売主にペナルティは課されません。
ただし、2つの書類を取り交わして交渉を始めると、売主には信義則の義務(配慮義務、説明義務、誠実交渉義務)が生じます。これらの義務に違反した場合、買主から損害賠償を求められるケースもあるので、あらかじめ注意しましょう。
参考:民法|e-Gov法令検索
なお、売渡承諾書に記載すべき主な内容は、以下のとおりです。
- 買主・売主の氏名
- 作成日時
- 売却を承諾する旨の文章
- 物件情報
- 販売条件
- 販売予定価格
- 有効期限
まとめ
不動産買付証明書とは、購入を希望する側が「購入の意思」を示すために売主側に提出する書類です。提出義務も法的効力もありませんが、購入を希望する側は物件取得および情報収集で有利になる、売主側は交渉を進めやすいというメリットを得られるので、不動産取引における重要性は高いといえるでしょう。
一方、記載内容によっては交渉時期が遅くなったり、売主側の心証を損なったりするため、契約書類などと同じく慎重に作成すべきです。
また、売主側は不動産買付証明書への回答として売渡承諾書を提出するので、そちらの概要も押さえておきましょう。
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