暦年贈与とは? 定期贈与・連年贈与との違いや7つの注意点を徹底解説

暦年贈与とは 7つの注意点を解説

「節税対策で少しでも多くの財産を次世代に譲りたい」と考える方は少なくないでしょう。暦年贈与は、非課税制度を利用した生前贈与の一つです。相続税対策になる一方、定期贈与とみなされると課税されてしまう場合があります。

そこで本記事では、暦年贈与の概要や間違いやすいポイント、7つの注意点などについて解説します。

この記事を読むと分かること
  • 暦年贈与とは何か
  • 暦年贈与と定期贈与・連年贈与との違い
  • 暦年贈与を行なう際の7つの注意点
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1.暦年贈与とは?

「贈与」とは、ある者が無償で財産を譲り渡す意思を示し、相手がそれを承諾することで成立する契約の一種です。双方の意思表示が必要な点が相続との違いであり、贈与の際には「贈与税」がかかります。

贈与税とは「1人が1年間(1月1日~12月31日)に受けた贈与の合計額を計算し、そこから基礎控除額110万円を差し引いた残りの金額」に対する税金です。

暦年贈与とは?

つまり、1年間の贈与額の合計が110万円以下なら非課税となるため、この仕組みを利用して毎年贈与を行なうことを「暦年贈与」といいます。

参考:“No.4402 贈与税がかかる場合”. 国税庁. (参照2024-03-29)をもとに、HOME4Uが独自に作成

また、財産をもらった側には贈与税の申告と納税の義務がありますが、暦年贈与の範囲内であれば、贈与税の申告は必要ありません。

参考:“No.4429 贈与税の申告と納税”. 国税庁

2.暦年贈与の仕組みと間違いやすいポイント

家系図とお金

ここでは、暦年贈与の仕組みに関して、間違いやすいポイントを3つ紹介します。

2-1.110万円は、受贈者(受け取る側)の限度額

暦年贈与の非課税枠となる110万円は「受贈者(受け取る側)」の限度額であり、「贈与者(贈る側)」の限度額ではありません。

110万円は、受贈者(受け取る側)の限度額

以下に、注意すべきよくある間違いをまとめました。

【×】1人からもらえる額が110万円以下なら、何人から贈与されてもよい
【○】複数人から贈与される場合も、非課税の対象となる合計額は110万円以下

【×】贈与者(あげる方)は、年間に総額110万円しか贈与できない
【○】贈与者は何人にいくら贈与しても、課税の対象にはならない

参考:“No.4408 贈与税の計算と税率(暦年課税)”. 国税庁
“財産をもらったとき”. 国税庁. (参照2024-03-29)をもとに、HOME4Uが独自に作成

2-2.暦年贈与と定期贈与・連年贈与の違い

暦年贈与と混同されやすい言葉に、「定期贈与」「連年贈与」があります。それぞれの違いについて説明します。

2-2-1.定期贈与とは?

定期贈与とは、一定期間に一定の財産を贈与することです。例えば「毎年110万円を10年間にわたって贈与する」と契約し、生前贈与を行なった場合は、定期贈与に該当します。

1年ごとに契約を結ぶ暦年贈与と異なり、定期贈与では前もって贈与の期間と金額を取り決めます。そのため1年間の贈与額が110万円以下であっても、契約をした年に「定期金給付契約に基づく定期金に関する権利」の贈与を受けたものとみなされ、その合計額に対して課税されます。

上記の例でいえば、「計1,100万円の贈与をすることを、あらかじめ贈与者が約束し、10年間にわたって贈与を行なった定期贈与である」と判断され、贈与の全額である「110万円×10年=1,100万円」が課税対象になります。

ただし、定期贈与の場合でも、初年度は基礎控除額(110万円)を適用できます。

2-2-2.連年贈与とは?

連年贈与とは、毎年、繰り返し行なう贈与のことです。贈与の額などに決まりはなく、法律上や税務上の意味も持たないため、毎年行なわれる贈与の総称といえます。

したがって、暦年贈与も連年贈与に含まれると考えてよいでしょう。前述のとおり、年間の合計額が110万円以下であれば、非課税での贈与ができます。相続税の負担軽減を目的として生前贈与をするのであれば、暦年贈与を選択するとよいでしょう。

ただし、「暦年贈与」が「事前に約束した金額を、分割して贈与している」と判断されると、「定期贈与」として金額に関係なく贈与税が課されるため、注意が必要です。

2-3.贈与は現金とは限らない

「暦年贈与で引き継げるのは現金のみ」というイメージをお持ちの方もいるかもしれませんが、110万円以下の枠内であれば、現金以外の財産も贈与可能です。

代表的なものとして、株券や不動産、自動車などが挙げられます。ただし現金以外の財産については、その評価額を調べる必要があります。現金贈与の場合と同様に、評価額が110万円を超える場合は課税対象となりますので、十分に注意しましょう。

3.暦年贈与を行なうメリット

話し合う家族

本章では、暦年贈与を行なうメリットとして、以下の3点を紹介します。

  • 相続税や贈与税を節税できる
  • 複数人への相続が可能
  • 不動産の贈与にも使える

3-1.相続税や贈与税を節税できる

前提として、被相続人(亡くなった方)の財産を引き継ぐ際には相続税がかかります。その節税手段として有効なのが、暦年贈与です。1年間に110万円以下であれば非課税で贈与できるため、節税しながら相続財産を圧縮可能です。

暦年贈与では、贈与の期間が長くなるほど節税効果が増大します。贈与する相手が1人しかいなくても、10年という時間をかければ1,100万円を非課税で贈与できます。

1,100万円を一括贈与する場合と、暦年贈与する場合を比較すると、その差は歴然です。

贈与の方法 贈与税額
1,100万円を一括で贈与する場合(一括贈与) 207万円(※1)(※2)
年間110万円を10年に渡って贈与する場合(暦年贈与) 0円

(※1)特例贈与(祖父から孫への贈与、父から子への贈与など)の税率を適用
(※2)「1,100万円-110万円(基礎控除額)」×30%-90万円(特例贈与の控除額)=207万円

参考:“No.4408 贈与税の計算と税率(暦年課税)”. 国税庁. (参照2024-03-29)をもとに、HOME4Uが独自に作成

3-2.複数人への相続が可能

贈与税の基礎控除は「受贈者ごと」であるため、人数を問わず贈与できます。また、受贈者の年齢や関係性も問われないため、内縁の夫や妻への贈与も可能です。

そのため、贈与したい相手が複数人いる場合は、贈与の期間が短かったとしても、早めに相続財産を圧縮できる可能性があります。例えば「5人いる孫に、それぞれ110万円ずつ贈与する」場合、1年目で550万円、2年目で1,100万円の相続財産を減らし、そのぶん節税ができるのです。

ただし、暦年贈与を利用する際には、それぞれの受贈者との合意が必要です。注意点については後述するため、よく理解しておきましょう。

3-3.不動産の贈与にも使える

不動産は資産価値が高く、相続の際にも高額な相続税が課せられる場合があります。また不動産は物理的に分けられないため、遺言書のない相続では、相続人同士が揉める要因になりがちです。

そこで一つの選択肢として、暦年贈与の活用が挙げられます。暦年贈与により不動産の所有権を少しずつ贈与することで、一度に贈与するよりも節税になる可能性があるのです。また、暦年贈与は生前贈与であることから、贈与する相手を確実に選べる点もメリットでしょう。

ただし、贈与のたびに贈与契約を結ぶ必要があるほか、不動産登記の変更手続きなども行なわなければなりません。こうした手間がかかることに加え、不動産の評価額(課税価格)の算出などは、専門家に依頼する必要があります。

不動産の贈与については、「【詳しく解説】土地・不動産の生前贈与を使った相続税対策の基礎知識」も併せてご確認ください。

4.暦年贈与を行なう際の7つの注意点

贈与契約書

暦年贈与は相続税対策として有効ですが、やり方を間違えると課税の対象となってしまいます。ここでは、暦年贈与を行なう際の注意点を7つ紹介します。

  1. 贈与者と受贈者の認識を合わせる
  2. 贈与の時期や金額に注意する
  3. 暦年贈与と相続時精算課税制度の併用はできない
  4. 贈与の証拠を残す
  5. 贈与税の申告をする
  6. 遺留分を侵害しない範囲に留める
  7. 亡くなる前の一定期間に受けた贈与には相続税がかかる

4-1.贈与者と受贈者の認識を合わせる

暦年贈与の成立には「贈与者と受贈者、双方の同意」が必要です。

よくあるミスとして「親や祖父母が、子どもや孫の名義で勝手に通帳を作り、定期的にお金を振り込んでいる」といったケースが挙げられます。

この場合、贈与する側は暦年贈与のつもりでも、子どもや孫からすると「贈与されている」という認識がない場合もあるでしょう。したがって、同意があるとはみなされず、「名義預金」と判断されるおそれがあります。名義預金は、名義人(子どもや孫)の財産ではなく、被相続人(親や祖父母)の財産であり、相続税の対象になります。

暦年贈与を行なう際には、贈与者と受贈者の合意を証明するために、以下の内容を徹底しましょう。

  • 受贈者が口座の通帳や印鑑を管理する
    (口座開設の登録印は、受贈者が普段使用しているものを使う)
  • 受贈者が自由に引き出せる状態にしておく
  • 贈与者と受贈者で、贈与契約書を作成する

4-2.贈与の時期や金額に注意する

同じくありがちなミスとしては、「孫の誕生日に、毎年100万円ずつ贈与する」などして、「毎年同じ金額を、同じ時期に贈与している」ケースが挙げられます。

同じ金額の贈与を毎年行なっていると、「開始時に約束した金額を、分割して贈与している」とみなされる恐れがあります。また、毎年同じ月日に贈与を行なうことも「あらかじめ決まっていた贈与」と判断される可能性が高いでしょう。

税務署から「定期贈与」とみなされれば、あとから贈与税を納めなければなりません。

対策としては、毎年異なる時期に、異なる金額を贈与するのが有効です。「1年目は春に110万円を贈与」「2年目は秋と冬の2回に分けて、50万円ずつ贈与」など、金額と時期をずらすとよいでしょう。

4-3.暦年贈与と相続時精算課税制度の併用はできない

贈与税の課税方法としては、暦年課税(1年間に受けた贈与への課税)のほかに「相続時精算課税」があります。

相続時精算課税とは、以下の要件に該当すれば2,500万円まで非課税で贈与できる制度です。贈与財産の種類や金額、贈与回数に制限はありません。

  • 贈与者:贈与した年の1月1日において60歳以上の父母または祖父母など
  • 受贈者:贈与を受けた年の1月1日において18歳以上の者のうち、推定相続人(贈与者の子どもや孫などの直系卑属)

ただし、税金がまったくかからないわけではありません。相続時には「相続財産+贈与を受けた財産」の金額を計算して相続税が決定されます。

また、相続時精算課税制度と暦年贈与は選択制であり、併用できません。さらに、受贈者が一度、相続時精算課税制度を選択すると、以後その贈与者からもらう財産について、暦年贈与に変更することはできません。

なお、2024年(令和6年)1月からは相続時精算課税制度に新たな非課税枠が加わり、特別控除の2,500万円とは別に、年110万円までの贈与なら贈与税がかからず、相続財産に加算する必要もなくなりました。

参考:“No.4103 相続時精算課税の選択”. 国税庁

4-4.贈与の証拠を残す

先にも述べたとおり、暦年贈与の成立には贈与者・受贈者双方の合意が必要です。その際、贈与である証拠を残すためにも、贈与契約書を交わしておくとよいでしょう。

特に、贈与の相手が幼い孫などの場合は「贈与されている」という認識を持てない可能性があります。「家族なのに堅苦しい」と感じるかもしれませんが、毎回、贈与契約書を作成しましょう。

贈与契約書の記載内容は財産の種類によって異なりますが、必ず記載すべき項目は主に以下のとおりです。

  • 贈与契約締結の日付
  • 贈与者の住所、氏名
  • 受贈者の住所、氏名
  • 贈与の対象となる財産に関する情報
    例:現金○○円 など
  • 贈与財産の受け渡しが行なわれる日付・方法
    例:○年○月○日までにA銀行(口座名義、口座番号)に振り込む など

また、暦年贈与は税務署の調査対象になりやすいため、送金の証拠を残しておくことをおすすめします。現金を贈与する場合は、手渡しではなく金融機関を通じて送金するとよいでしょう。

4-5.贈与税の申告をする

暦年贈与のつもりでも、あとから定期贈与とみなされると、その合計額に対して贈与税が課されてしまいます。それを避けるために、あえて110万円以上の金額を贈与し、あらかじめ贈与税を申告しておく方法もあります。

以下3パターンの贈与税額を比較してみましょう。

  • 年110万円の贈与を10年間行なった場合(暦年贈与)
  • 年110万円の贈与を10年間行なった場合(定期贈与)
  • 年111万円の贈与を10年間行ない、贈与税を申告した場合
条件 贈与額 贈与税額(総額)
年110万円の贈与を10年間行なった場合(暦年贈与) 1,100万円 0円
年110万円の贈与を10年間行なった場合(定期贈与) 1,100万円 207万円(※1)(※2)
年111万円の贈与を10年間行ない、贈与税を申告した場合 1,110万円 1万円(※3)

(※1)特例贈与の税率(祖父から孫への贈与、父から子への贈与など)を適用
(※2)(1,100万円-110万円(基礎控除額))×30%-90万円(控除額)=207万円
(※3)(111万円-110万円(基礎控除額))×10%×10年間=1,000円

非課税で贈与できるに越したことはありませんが、何らかの事情で税務署から「定期贈与」と判断されれば、贈与の合計額に対して税金がかかります。あとから定期贈与とみなされて課税されるリスクを考えると、贈与税の申告は有効な手段といえるでしょう。

なお、贈与税の申告は受贈者が行ないます。一度作成した申告書を使えば、翌年以降もほぼ同じ内容で簡単に申告できます。

4-6.遺留分を侵害しない範囲に留める

贈与の合計額を、遺留分を侵害しない範囲に留めることも重要です。

遺留分とは、法定相続人に最低限認められた相続分のことです。生前贈与により、特定の受贈者へ集中的に財産を承継させようとすると、ほかの法定相続人の遺留分を侵害してしまう可能性があります。

相続財産に対する遺留分の割合は、以下のとおりです。

配偶者のみが相続人の場合 2分の1
子のみが相続人の場合 2分の1
直系尊属のみが相続人の場合 3分の1
兄弟姉妹のみが相続人の場合 遺留分なし
配偶者と子が相続人の場合 配偶者が4分の1、子が4分の1
配偶者と父母が相続人の場合 配偶者が3分の1、父母が6分の1
配偶者と兄弟姉妹が相続人の場合 配偶者が2分の1、兄弟姉妹は遺留分なし

出典:“遺留分とは何ですか?”. 法テラス. (参照2024-03-29)をもとに、HOME4Uが独自に作成

暦年贈与によってこの遺留分を侵害すると、侵害された法廷相続人は、受贈者に対して遺留分侵害額に相当する金銭の支払いを請求できます。これを、遺留分侵害額請求権といいます。

したがって、暦年贈与を行なう際には、遺留分を考慮した範囲に留めるようにしましょう。もしくは、ほかの相続人ともよく話し合ったうえで進めることをおすすめします。

4-7.亡くなる前の一定期間に受けた贈与には相続税がかかる

贈与を受けた日から一定期間(相続開始前7年間)に贈与者が亡くなると、その贈与財産は相続財産に加算(持ち戻し)され、相続税の課税対象になります。これを「生前贈与加算」といいます。

もともとは「相続開始前3年間」と定められていましたが、2023年度(令和5年度)の税制改正により、2024年(令和6年)1月1日からは「相続開始前7年間」に延長されました(ただし、延長された4年間に取得した贈与については、総額100万円まで相続財産には加算されません)。

こうした生前贈与加算期間の延長は、若年層への資産移転の進みにくさを解消し、「資産の移転時期の選択により中立的な税制」の構築を目的としたものです。

参考:“資産課税”. 財務省

参考:“令和5年度 相続税及び贈与税の税制改正のあらまし”. 国税庁

まとめ

暦年贈与とは、年間110万円以下であれば非課税となる制度を利用した、生前贈与の一つです。贈与の対象は現金だけでなく、不動産や自動車も含まれます。

暦年贈与は節税や相続税対策になる一方で、やり方を間違えると、定期贈与や名義預金とみなされ課税の対象になります。贈与契約書を作成して証拠を残しておくほか、贈与のタイミングや金額に気を付けましょう。

また暦年贈与を行なう際には、受贈者はもちろん、ほかの相続人ともよく話し合い、計画的に進めることが重要です。早くから開始すると節税面でのメリットも大きいため、元気なうちからしっかり検討しておくことをおすすめします。

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