マンションの相続税評価額、計算方法や時価との関係を徹底解説

相続でマンションを引き継ぐ予定の方や、実際に相続が発生してしまった方の中には、マンションの相続税評価額の計算方法を知りたいと思っている方も多いと思います。

残念ながら、マンションの相続税評価額は戸建てとは異なり、簡単に計算することができません。
正確な相続税評価額を知るには最終的に税理士に算出してもらう必要があります。

ただし、一般の方でも概算額を出すことは可能 です。
概算額が分かれば、少なくとも相続税の発生の有無程度はわかるため、安心材料になるのではないでしょうか。

そこでこの記事では、

  • 建物や土地の相続税評価額
  • マンション敷地でよく使う価格補正
  • 具体的な計算例
  • 賃貸マンションや小規模宅地等の特例を利用した場合の相続税評価額

などについて紹介します。

ぜひ最後までおつきあいいただき、マンション相続の準備にお役立てください。

住む予定のない実家や、相続などで不要な物件をお持ちの方で、記事をすべて読むのが面倒な方は、不動産を少しでも高く売るコツを漫画で解説していますので、こちらも合わせてご覧ください。

この記事の執筆者
竹内 英二
不動産鑑定士事務所および宅地建物取引業者である(株)グロープロフィットの代表取締役を務める。 不動産鑑定士、宅地建物取引士、賃貸不動産経営管理士、不動産コンサルティングマスター(相続対策専門士)、中小企業診断士。
(株)グロープロフィット

1.相続税は「マンションも含めた全資産」で決まる

すでに十分ご理解いただいている方もおられると思いますが、最初に知っておいていただきたいのは、相続税は「マンションも含めた全資産で決まる」という点です。

相続税は、被相続人(他界した人)の全ての財産が課税対象 となるため、全財産を合算した上でマンションの相続税が計算されます。

課税対象となる財産は、現金や不動産、株・投資信託、車等のプラス財産の他、借金等のマイナス財産も含まれます。
借金のようなマイナス財産がある場合、被相続人の財産からマイナス分が減額されて課税価格が計算されます。

相続税の対象となる課税遺産総額は、全財産を合算した課税価格から基礎控除額を控除したものです。

課税遺産総額 = 全財産を合算した課税価格 - 基礎控除額

基礎控除額は以下の式で計算されます。

基礎控除額 = 3,000万円 + (600万円 × 法定相続人の数)

例えば法定相続人が「配偶者と子供2人で合計3人」の場合、基礎控除額は4,800万円となります。

相続税は基礎控除額を超えた財産に対して課税されるため、法定相続人が3人いる家族であれば、被相続人の財産が4,800万円超でないと相続税は課税されないということです。

国税庁によると、2019年度分における相続税の課税対象者の割合は下表の通りです。

地域 全国 東京都
相続税の課税対象者の割合 8.3% 13.1%

出典:国税庁「令和元年分相続税の申告事績の概要
令和元年分相続税の申告事績の概要

全国では相続税の課税対象となっている人が8%程度ですので、基礎控除額を超える財産を持っている被相続人は8%程度しかいないことになります。

また、東京都は土地価格が高いため、相続税の課税対象者が多いですが、それでも基礎控除額を超える財産を持っている被相続人は13%程度となっています。
よって、相続税はほとんどの人が課税されない税金であるということになります。

2.マンションの相続対象部分

では、この記事のテーマである「マンション」について見ていきましょう。
マンションの相続対象部分は、「専有部分である建物」と「敷地権である土地」の2つです。
マンション所有者は、専有部分の建物だけを所有しているわけでなく、土地の権利も持っています。

マンションの土地の権利は、「敷地権」と呼ばれる権利です。
敷地権とは、建物の所有権と「敷地利用権」を分離処分できないように設定された権利のことです。
敷地利用権とは、所有権や賃借権、地上権等の建物を利用するための土地の権利になります。

多くのマンションは敷地利用権が所有権ですので、マンション所有者は通常、土地の共有持分も有しているということです。
土地の共有持分も被相続人の財産であるため、相続税の課税対象に組み込まれます。

3.建物の相続税評価額

前章を掘り下げて、この章では「建物」の部分にフォーカスします。

建物の相続税評価額は、固定資産税評価額になります。
固定資産税評価額は「固定資産税納税通知書」における建物の欄で、「評価額」または「価格」と記載されている箇所の価額になります。

固定資産税納税通知書を、一度ご覧になってみると良いかもしれません。

4.土地の相続税評価額

続いて「土地」の部分にフォーカスします。

土地の相続税評価額は、国税庁が開示している相続税路線価と呼ばれる土地単価を用いて計算します。

画像出典:国税庁「財産評価基準書路線価図・評価倍率表

相続税路線価は、前面道路に記載された数値であり、「千円/平米」の土地単価を表します。
単純に路線価にマンション敷地全体の土地面積を乗じると、マンション全体の敷地の相続税評価額が算出され、マンション全体の敷地の相続税評価額に敷地権割合を乗じれば、敷地権の相続税評価額の概算額を出すことが可能です。

敷地権割合とは登記簿謄本に記載されている割合のことであり、土地の共有持分割合を表します。

【敷地権の相続税評価額の概算額を出す方法】

マンション全体の敷地の相続税評価額 = マンション敷地全体の土地面積 × 前面道路の相続税路線価

敷地権の相続税評価額の概算額 = マンション全体の敷地の相続税評価額 × 敷地権割合

マンション敷地全体の土地面積は、登記簿謄本に記載された土地全体の「地積」を用います。
敷地権割合も登記簿謄本に記載された「敷地権の割合」を用います。

郊外では、相続税路線が付されていない倍率地域と呼ばれる地域があります。

画像出典:国税庁「財産評価基準書路線価図・評価倍率表

倍率地域では、国税庁の「財産評価基準書 路線価図・評価倍率表」よる倍率表を用いて土地の相続税評価額を計算します。
倍率表には、対象となる地域の土地の倍率が記載されています。

画像出典:国税庁「財産評価基準書路線価図・評価倍率表

倍率地域では、土地の固定資産税評価額に倍率を乗じたものが土地の相続税評価額です。
倍率地域にマンションが建っているケースは少ないですが、倍率地域でも同じ考え方で敷地権の相続税評価額の概算額を算出することができます。

【倍率地域における敷地権の相続税評価額の概算額を出す方法】

マンション全体の敷地の相続税評価額 = マンション全体の固定資産税評価額 × 倍率

敷地権の相続税評価額の概算額 = マンション全体の敷地の相続税評価額 × 敷地権割合

マンション全体の固定資産税評価額は、固定資産税納税通知書の土地の部分に記載されている金額です。

不動産売却塾 コラム

~相続税評価額と時価はほとんど関係しない~

マンションの場合、結論からすると、相続税評価額と時価はほとんど関係ありません。
時価から相続税評価額を求めることは、ほぼ不可能です。

マンションの時価も概念上は土地と建物で構成されていますが、現実的に土地と建物の内訳価格を適正に求めることは難しいといえます。

また、マンションの時価は、階数が高いほど高くなりますが、建物の固定資産税評価額は単純に建物全体の価格を専有面積で割ったものであるため、階数による差異はないです。
そのため、タワーマンションなどは上層階ほど、時価と固定資産税評価額とのギャップが大きくなります。

一方で、土地に関しては地価公示価格の8割程度が相続税評価額となっています。
地価公示価格は国が行っている毎年1月1日時点における定点観測ポイントの評価額のことです。

地価公示価格は建前上、時価ということになっていますが、マンションが建つような都市部は地価公示よりも時価の方がかなり高く、大きな乖離が生じています。
よって、土地価格も時価の80%とは断定しにくい状況です。

一般的にはマンションの相続税評価額は時価よりもかなり低く、物件によっては相続税評価額が時価の半額未満となっているようなマンションも存在します。

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5.マンション敷地でよく使う価格補正

マンションの敷地については、価格の補正が行われることがあります。
本章では、マンション敷地でよく使う3つの価格補正について解説します。

  1. 奥行価格補正
  2. 側方路線影響加算
  3. 奥行長大補正

それではひとつずつ見ていきましょう。

5-1.奥行価格補正

奥行価格補正とは、対象地が平均的な奥行に比し、短いもしくは長い場合に行う補正です。
補正率は地区区分に応じたものを用います。
地区区分とは、国税庁が定めている地区の分類のことであり、路線価図の右上に示されたものです。

路線価図 地区区分

画像出典:国税庁「財産評価基準書路線価図・評価倍率表

地区区分に応じた奥行価格補正の補正率は下表の通りです。

【奥行価格補正率表】
地区区分
奥行距離(メートル) 
ビル街地区 高度商業地区 繁華街地区 普通商業・併用住宅地区 普通住宅地区 中小工場地区 大工場地区
4未満 0.80 0.90 0.90 0.90 0.90 0.85 0.85
4以上6未満 0.92 0.92 0.92 0.92 0.90 0.90
6 〃 8 〃 0.84 0.94 0.95 0.95 0.95 0.93 0.93
8 〃 10 〃 0.88 0.96 0.97 0.97 0.97 0.95 0.95
10 〃 12 〃 0.90 0.98 0.99 0.99 1.00 0.96 0.96
12 〃 14 〃 0.91 0.99 1.00 1.00 0.97 0.97
14 〃 16 〃 0.92 1.00 0.98 0.98
16 〃 20 〃 0.93 0.99 0.99
20 〃 24 〃 0.94 1.00 1.00
24 〃 28 〃 0.95 0.97
28 〃 32 〃 0.96 0.98 0.95
32 〃 36 〃 0.97 0.96 0.97 0.93
36 〃 40 〃 0.98 0.94 0.95 0.92
40 〃 44 〃 0.99 0.92 0.93 0.91
44 〃 48 〃 1.00 0.90 0.91 0.90
48 〃 52 〃 0.99 0.88 0.89 0.89
52 〃 56 〃 0.98 0.87 0.88 0.88
56 〃 60 〃 0.97 0.86 0.87 0.87
60 〃 64 〃 0.96 0.85 0.86 0.86 0.99
64 〃 68 〃 0.95 0.84 0.85 0.85 0.98
68 〃 72 〃 0.94 0.83 0.84 0.84 0.97
72 〃 76 〃 0.93 0.82 0.83 0.83 0.96
76 〃 80 〃 0.92 0.81 0.82
80 〃 84 〃 0.90 0.80 0.81 0.82 0.93
84 〃 88 〃 0.88 0.80
88 〃 92 〃 0.86 0.81 0.90
92 〃 96 〃 0.99 0.84
96 〃 100 〃 0.97 0.82
100 〃 0.95 0.80 0.80

国税庁「補正率表

5-2.側方路線影響加算

側方路線影響加算とは、対象地が角地にある場合の補正です。
地区区分に応じた側方路線影響加算の補正率は下表の通りです。

【側方路線影響加算率表】
地区区分 加算率
角地の場合 準角地の場合
ビル街地区 0.07 0.03
高度商業地区
繁華街地区 
0.10 0.05
普通商業・併用住宅地区 0.08 0.04
普通住宅地区
中小工場地区 
0.03 0.02
大工場地区 0.02 0.01

国税庁「補正率表

準角地とは、一系統の路線の屈折部の内側に位置する土地のことです。

準角地とは

5-3.奥行長大補正

奥行長大補正とは、対象地が間口に対して奥行きが長い場合に行う補正です。
奥行長大補正は、奥行価格補正から一方踏込んだ補正であり、「ウナギの寝床」のような土地に適用します。

奥行長大補正では、間口と奥行の比率を求め、その比率に応じた奥行長大補正率により補正を行います。

間口と奥行の比率 = 奥行距離 ÷ 間口距離

奥行長大補正率は下表の通りです。

地区区分

奥行距離÷間口距離

ビル街地区 高度商業地区
繁華街地区
普通商業・
併用住宅地区
普通住宅地区 中小工場地区 大工場地区
2以上3未満 1 1 0.98 1 1
3 〃 4 〃 0.99 0.96 0.99
4 〃 5 〃 0.98 0.94 0.98
5 〃 6 〃 0.96 0.92 0.96
6 〃 7 〃 0.94 0.9 0.94
7 〃 8 〃 0.92 0.92
8 〃 0.9 0.9

国税庁「補正率表

6.マンション敷地の評価の計算例

マンション敷地の評価の計算例を紹介します。
以下のような条件で、マンションA棟が建っている敷地の評価額を求めます。

敷地全体面積:1,800平米
敷地権割合:80,640/10,000,000
地区区分:普通住宅地

マンション敷地の評価の計算例

【計算例】

細長い土地であるため、奥行長大補正を適用します。

間口と奥行の比率 = 奥行距離 ÷ 間口距離
         = 60m ÷ 30m
         = 2

普通住宅地で間口と奥行の比率が2の場合、奥行長大補正率は「2以上3未満」の値である「0.98」を採用します。

また、普通住宅地で奥行距離が60mであるため、奥行価格補正率は「60以上64未満」の値である「0.86」を採用します。

路線価 = 全面路線価 × 奥行長大補正率 × 奥行価格補正率
    = 165,000円 × 0.98 × 0.86
    = 139,062円

マンション全体の敷地の相続税評価額 = マンション敷地全体の土地面積 × 路線価
                  = 1,800平米 × 139,062円
                  = 250,311,600円

敷地権の相続税評価額の概算額 = マンション全体の敷地の相続税評価額 × 敷地権割合
               = 250,311,600円 × 80,640/10,000,000
               = 2,018,512円

敷地の補正は知識や経験値を要するため、一般の方が適切に行うのはかなり難しいです。
ちなみに補正を全く行わず、上記の例で概算額を出す方法によって概算額を算出してみます。

マンション全体の敷地の相続税評価額 = マンション敷地全体の土地面積 × 前面道路の相続税路線価
                  = 1,800平米 × 165,000円
                  = 297,000,000円

敷地権の相続税評価額の概算額 = マンション全体の敷地の相続税評価額 × 敷地権割合
               = 297,000,000円 × 80,640/10,000,000
               = 2,395,008円

計算例で補正して求めた敷地権の評価額は「2,018,512円」で、概算額は「2,395,008円」でした。

概算額と補正した評価額は、当たらずとも遠からずとなっており、相続税が発生するか否かを判断する程度であれば、概算額で十分といえます。

とりあえず、ざっくりとした相続税評価額を知りたい場合には、概算額を参考 にしてみてください。

7.賃貸マンションの相続税評価額

賃貸マンションの相続税評価額のような「他人に貸している収益物件」の相続税評価額の求め方は、以下の通りです。

(建物の評価額)
建物評価額 = 建物の固定資産税評価額 × (1 - 借家権割合 × 賃貸割合)

(土地の評価額)
貸家建付地評価額 = 自用地としての価額 × (1 - 借地権割合 × 借家権割合 × 賃貸割合)

借家権割合とは、全国一律「30%」で定められた数値です。
借地権割合は、エリアによって30%~90%の値で定められた数値になります。
賃貸割合とは、相続時における入居率のことです。

自用地としての価額は、相続税路線価によって求めた評価額になります。
区分のマンションを賃貸している場合には、前章まで解説した敷地権の評価額が該当します。

8.小規模宅地等の特例を利用した場合の相続税評価額

小規模宅地の特例とは、相続財産のうち、一定の敷地について限度面積までの部分について80%または50%減額するという制度です。

マンションで小規模宅地等の特例を適用する場合、一旦敷地権の評価額を求め、そこから80%または50%の減額割合によって土地の評価額を大幅に落とすことができます。

小規模宅地等の特例が適用される土地の区分と減額割合、限度面積は下表の通りです。

区分 具体例 減額割合 限度面積
特定居住用宅地等 自宅マンションの土地 80% 330平米
特定事業用宅地等
特定同族会社事業用宅地等
不動産貸付業以外の事業に供しているマンションの土地 80% 400平米
貸付事業用宅地等 賃貸マンション 50% 200平米

「特定居住用宅地等」とは、被相続人(他界した人)の自宅の土地です。
「特定事業用宅地等」とは、被相続人が事業に使っていた土地になります。

「特定同族会社事業用宅地等」とは、被相続人等の持ち分割合が50%超の法人の事業の用に供されていた土地です。
「貸付事業等宅地」とは、賃貸マンションのような不動産の貸付事業の用に供されていた土地です。

特定居住用宅地等が適用できるケースは、取得者が一定の要件を満たす「配偶者」か「同居または生計を一にする親族」、「持ち家のない別居親族」等に限られます。

特定居住用宅地等以外の区分が適用できるケースは、取得者が一定の要件を満たす「親族」となっています。

小規模宅地の特例は適用要件が厳しく、利用ができないことも多いです。
適用要件については、国税庁のホームページで確認し、最終的には税理士にも相談するようにしてください。

【国税庁】

まとめ

いかがでしたか。
「マンションの相続税評価額」について、解説してきました。

マンションの相続対象部分は、「専有部分である建物」と「敷地権である土地」の2つで構成されています。
相続税評価額は、建物は固定資産税評価額となり、土地は原則として相続税路線価より求めます。

賃貸マンションの場合には、建物には借家権割合による評価減や土地には貸家建付地評価減が適用されます。
条件を満たせば小規模宅地等の特例を利用することも可能なので、チェックしてみてください。

マンションの相続税評価額を簡単に出すことはできないので、気になる方は税理士に算出してもらうことをおススメします。

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