不動産のインスペクションとは?メリット・デメリット、方法、費用を解説

不動産のインスペクションとは、既存住宅(中古住宅)の建物状況調査のことです。建築士など建物の専門家が、構造耐力上主要な部分と雨水の浸入を防止する部分について調査を行います。
2020年4月の民法改正により、売主の責任範囲が広がった(契約不適合責任)ことで、不動産売買においてインスペクションを活用する機会がますます増えてきました。
この記事では、インスペクションのメリット・デメリット、調査方法、実施の流れ、費用、注意点などを、売買初心者の方にも分かりやすく徹底解説します。

インスペクションを賢く活用できれば、不動産をより良い条件で売却でき、売買後のトラブルも避けられます。ぜひ参考にしてくださいね。

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この記事の執筆者

不動産の売却について基礎から詳しく知りたい方は『不動産売却の入門書』も合わせてご覧ください。

1. インスペクションとは?

インスペクションについて詳しく見ていく前に、まずは「インスペクションとは何か」という基本的な定義から解説していきます。

1-1. 国が定める「既存住宅状況調査」のこと

インスペクションとは、一言でいえば中古住宅の「健康診断」です。正式名称を「既存住宅状況調査」といい、国の定めた講習を修了した建築士などの専門家(既存住宅状況調査技術者)が、建物の基本的な状態を調査します。
具体的には、以下の2つの重要なポイントをチェックします。

  • 構造耐力上主要な部分:基礎や柱、壁など、建物を支える骨格部分のひび割れや劣化。
  • 雨水の浸入を防止する部分:屋根や外壁、窓まわりなどからの雨漏りの可能性。

この調査により、目に見えにくい建物の劣化状況や不具合の有無を客観的に把握できるため、売主も買主も安心して取引を進めるための重要なプロセスと位置づけられています。

1-2. 2018年の法改正で不動産会社に課された3つの義務

インスペクションの重要性が高まった背景には、国が中古住宅の流通を促進する方針を掲げていることがあります。その一環として、2018年4月に宅地建物取引業法が改正され、不動産会社にはインスペクションに関して以下の3点が義務付けられました。

不動産会社に義務付けられた3つのこと

  1. 媒介契約の締結時:売主に対し、インスペクション業者を斡旋(紹介)できるかどうかを記載した書面を交付する義務。
  2. 重要事項説明の時:買主に対し、インスペクションが実施されている場合はその結果の概要を説明する義務。
  3. 売買契約の成立時:建物の状況について売主・買主双方が確認した内容を記載した書面を交付する義務。

このように、不動産会社は取引の各段階でインスペクションに関する情報提供を行う必要があります。ただし、インスペクションの実施自体は、売主や買主の義務ではありません。

1-3. インスペクションは売主・買主を守り、安心な取引を実現する制度

インスペクションは、単に建物の欠陥を探すためのものではありません。
建物の現状を正しく把握し、その情報を売主と買主が共有することで、お互いが納得して取引を行うための制度です。
特に、2020年4月の民法改正で「契約不適合責任」が導入され、売主が負う責任が重くなった今、事前に建物の状態を明らかにしておくことは、売主を予期せぬトラブルから守る「お守り」のような役割も果たします。

2. 【売主・買主別】インスペクションのメリット・デメリット

インスペクションは、売主と買主の双方にメリットがありますが、同時にデメリットも存在します。それぞれの立場から見ていきましょう。

2-1. 売主側のメリット:高く早く、安心して売却できる

売主の3つのメリット

  1. 他の物件と差別化でき、早く・高く売れる可能性がある
  2. 売却後のトラブル(契約不適合責任)を回避しやすくなる
  3. 売主自身が家の状態を把握でき、安心して売却できる

①他の物件と差別化でき、早く・高く売れる可能性がある

インスペクション済みで、建物の状態が良好であることが証明されれば、買主は安心して購入を決断しやすくなります。これは、数ある中古物件の中から選ばれるための大きなアピールポイントとなり、結果として早期売却や、強気な価格設定での売却につながる可能性があります。

インスペクションの利用効果アンケート結果

出典:公益社団法人全国宅地建物取引業協会連合会「土地・住宅に関する消費者アンケート調査

実際に、過去の調査でもインスペクションを実施した売主から「希望価格で売れた」「買手が早く見つかった」といった声が多く挙がっています。

②売却後のトラブル(契約不適合責任)を回避しやすくなる

最大のメリットは、売却後のトラブルリスクを大幅に減らせることです。事前に建物の状態を調査し、その結果を買主へ説明した上で契約書に明記しておけば、引き渡し後にその箇所について責任を問われる可能性は低くなります。(詳しくは「7. インスペクションと契約不適合責任」で解説します)

③売主自身が家の状態を把握でき、安心して売却できる

長年住んでいても、自宅の隅々まで状態を把握している方は少ないものです。専門家による調査で「特に大きな問題はない」と分かれば、売主自身が自信を持って買主に物件を勧められますし、安心して売却活動を進めることができます。

2-2. 売主側のデメリット:費用と手間がかかり、修繕が必要になることも

売主の3つのデメリット

  1. 費用と調査期間が発生する
  2. 不具合が見つかると、値引きや修繕費用の発生につながる
  3. 軽微な指摘で、心理的な負担を感じてしまうことがある

①費用と調査期間が発生する

インスペクションには、後述するように5万円前後の費用と、依頼から報告書受領まで2週間程度の期間がかかります。売却活動を始める前に、この費用と時間を確保しておく必要があります。すぐにでも売却したい方にとっては、この時間がデメリットに感じられるかもしれません。

②不具合が見つかると、値引きや修繕費用の発生につながる

調査の結果、予想外の不具合が見つかる可能性もあります。その場合、補修せずに売るなら価格交渉の材料にされたり、高く売るために事前に修繕費用が発生したりすることがあります。インスペクションを行ったがゆえに、追加の出費が発生する可能性がある点はデメリットです。

③軽微な指摘で、心理的な負担を感じてしまうことがある

中古住宅の場合、多少のひび割れやシミなど、軽微な不具合は必ずと言っていいほど見つかります。これは人間が健康診断を受ければ何かしらの数値が基準値外になるのと似ています。重大な欠陥ではないと分かっていても、細かな指摘事項が並んだ報告書を見ると、必要以上に不安になってしまう方もいます。

2-3. 買主側のメリット:建物の状態がわかり、購入後の計画が立てやすい

買主側のメリットはシンプルで、専門家の目でチェックされた物件を安心して購入できることです。また、事前に補修が必要な箇所が分かっていれば、購入後のリフォーム計画や資金計画も立てやすくなります。

2-4. 買主側のデメリット:費用負担や、売主との交渉が必要になる場合がある

買主がインスペクションを希望する場合、その費用は基本的に買主が負担します。また、調査のためには売主の許可を得る必要があり、その交渉や日程調整の手間がかかります。調査の結果、問題が見つかった場合に修繕を要求しても、売主が応じてくれるとは限らない点もデメリットといえるでしょう。

3. インスペクションで何がわかる?調査対象と方法

インスペクションとは、専門家による建物の調査のことです。対象となる建物は、既存住宅であり、店舗や事務所は対象とはなりません

3-1. 調査の対象となる住宅(既存住宅の定義)

インスペクションの対象となるのは、既存住宅(中古住宅)です。具体的には、以下の住宅が対象となります。

  • 築年数が2年以上の住宅
  • すでに人が住んだことがある中古住宅
  • 中古の一戸建て、マンション、アパートなど

竣工から1年未満で誰も住んだことのない新築住宅は対象外です。また、店舗併用住宅の場合は、住宅部分のみが調査対象となります。

3-2. 調査対象となる部位(構造耐力・雨水浸入)

インスペクションでは、建物のどこを調べるのでしょうか。調査対象は、主に「構造耐力上主要な部分」と「雨水の浸入を防止する部分」です。

戸建て住宅の主な調査部位
構造耐力上主要な部分 基礎、土台、床、柱、梁(はり)などの横架材、壁、斜材(筋かい)、小屋組
雨水の侵入を防止する部分 屋根、外壁、開口部(窓やドア)

マンションの主な調査部位(専有部分)
構造耐力上主要な部分 床、壁
雨水の侵入を防止する部分 開口部(窓やドア)、(専用使用権のあるバルコニー等)

※マンションの場合、基礎や外壁などの共用部分はインスペクションの対象外です。

これらの範囲を調査することで、雨漏りやシロアリによる床下の腐食、家の傾きといった住宅の基本的な性能に関わる重大な欠陥がないかを調べます。

一方で、インターフォンや浴室乾燥機、ディスポーザー等の住宅設備に関しては、インスペクションの対象外です。住宅設備に関しては、売主が作動確認を行います。見つけた不具合は「付帯設備表」と呼ばれる調査シートに記載してください。

3-3. 調査の方法器

調査は、壁や天井を壊したりする「破壊調査」は行わず、「目視」が基本です。調査員は、点検口から天井裏や床下に潜り込み、直接目で見て確認します。
その他に、以下のような専門的な機器を使って、より客観的なデータを計測します。

  • レーザー距離計・水平器:床や柱の傾き、建物のゆがみを計測します。
  • 打診棒:外壁タイルなどを叩き、音の違いで浮きや剥離がないかを確認します。
  • 含水率計:木材の水分量を測り、腐食やシロアリ被害のリスクがないかを確認します。
  • 赤外線サーモグラフィー(オプション):壁などの表面温度を測定し、断熱材の欠損や雨漏りの可能性を探ります。

3-4. 調査の対象外となるもの(住宅設備など)

インスペクションは、あくまで建物の構造や雨漏りに関する基本的な調査です。そのため、以下のようなものは調査の対象外となる点に注意が必要です。

  • インターフォン、給湯器、浴室乾燥機、エアコンなどの住宅設備
  • シロアリの有無そのもの(被害による木部の腐食などは調査対象)
  • コンセントの通電確認など、電気配線の詳細
  • 給排水管の詰まりや水圧(水漏れの有無は確認)
  • 耐震性そのものの診断(傾きなどからリスクを推測することはある)

住宅設備については、売主が「付帯設備表」という書類で、不具合の有無を買主に告知するのが一般的です。

4. インスペクションの流れと期間

インスペクション実施の流れ
インスペクションは、どのような流れで進めるのでしょうか。依頼から結果の活用まで、4つのステップで解説します。

4-1. 【フロー図】依頼から報告書受領までの4ステップ

ステップ1:インスペクター(調査会社)を探して依頼する

まずは、インスペクションを実施してくれる専門家を探します。探し方については「8. どこに頼む?インスペクターの資格と業者選びの注意点」で詳しく解説します。依頼先が決まったら、調査日時を調整します。

ステップ2:現地調査の実施

予約した日時にインスペクターが現地を訪れ、調査を実施します。調査にかかる時間は、戸建て住宅の場合で2~3時間程度が目安です。

ステップ3:調査報告書の受領

現地調査から数日~1週間程度で、写真付きの詳細な調査報告書が作成されます。多くの業者では、報告書の内容について対面やオンラインで説明を受ける機会が設けられています。

ステップ4:調査結果への対応・活用

報告書の内容に基づき、売却活動に活かします。不具合が見つかった場合は、修繕するのか、価格交渉に応じるのかなどを検討します。
インスペクションに要する時間と期間
依頼から報告書受領までの期間は、全体で2週間程度を見ておくとよいでしょう。地方ではインスペクターが不足している場合もあり、もう少し時間がかかる可能性もあります。売却スケジュールを立てる際は、余裕をもって計画してください。

4-2. 売主が実施する場合のタイミングと注意点

売主がインスペクションを行う場合の流れ

売主がインスペクションを行う場合、最適なタイミングは不動産会社と媒介契約を結び、売却活動を始める前です。
事前に調査を済ませておくことで、その結果を販売図面や広告に記載でき、買主への強力なアピール材料になります。
もし調査で不具合が見つかった場合は、売却活動を始める前に対応を検討できます。

  • 修繕してから売り出す:価格を下げずに売却したい場合に有効です。
  • 修繕せずに売り出す:その分、売出価格を調整したり、買主からの価格交渉に応じることを想定したりする必要があります。

4-3. 買主が実施する場合のタイミングと注意点

買主がインスペクションを行う場合の流れ

買主がインスペクションを希望する場合、一般的には購入申込書(買付証明書)を提出し、売買契約を結ぶ前のタイミングで行います。
調査結果を見て、最終的にその物件を購入するかどうかを判断するためです。もし重大な欠陥が見つかれば、購入を見送ることもあります。

4-4. 当日の立ち会いは必要?準備しておくこと

インスペクション当日の立ち会いは、義務ではありませんが、可能な限り立ち会うことをおすすめします
専門家から直接、建物の状況について説明を受けたり、その場で疑問点を質問したりできる貴重な機会だからです。特に売主は、買主からの質問に備えるためにも、状況を把握しておくと安心です。
また、売主として事前に準備しておくべきことは以下の通りです。

  • 点検口の周りを片付けておく(天井裏、床下)
  • 空き家の場合は電気・水道を使えるようにしておく
  • 設計図書やリフォーム履歴などの書類を準備しておく

5. インスペクションの費用と補助金

インスペクションにかかる費用を確認するとともに、インスペクションで使える補助金についても解説します。

  • 費用相場は5万円前後が一般的
  • Q&A:費用は誰が払うのが一般的なの?
  • 活用できる可能性のある国や自治体の補助金制度

5-1. 費用相場は5万円前後が一般的

インスペクションの費用は、業者や建物の規模・構造によって異なりますが、一般的な木造戸建て住宅(延床面積120㎡程度)で5万円~8万円程度が相場です。マンションは調査範囲が狭いため、もう少し安くなる傾向があります。
床下や屋根裏への進入が困難な場合や、赤外線サーモグラフィーを使った調査などは、追加のオプション料金がかかることもあります。

5-2. Q&A:費用は誰が払うのが一般的なの?

Q. インスペクションの費用は、売主と買主、どちらが負担するのですか?

A. 原則として「検査を依頼した側」が負担します。

売主が売却活動のために自発的に依頼した場合は売主負担、買主が購入判断のために希望した場合は買主負担となるのが一般的です。法律でどちらが負担すべきか決まっているわけではないため、交渉次第で費用を折半するケースもあります。

5-3. 活用できる可能性のある国や自治体の補助金制度

インスペクションの費用負担を軽減するために、国や自治体が補助金制度を設けている場合があります
例えば、以下のような制度が代表的です。

  • 長期優良住宅化リフォーム推進事業:インスペクションを行い、一定の性能向上リフォームをする場合に、費用の一部が補助される国の制度。
  • 自治体独自の補助制度:東京都や兵庫県など、一部の自治体ではインスペクションの実施費用そのものに対する補助金制度があります。

これらの制度は、要件や募集期間が限られています。お住まいの自治体のホームページを確認したり、不動産会社に相談したりしてみましょう。

6. インスペクションは義務?やらなくてもいい?

結論として、インスペクションは義務ではありません。
実施することにはメリットがあり、実施しないことがリスクとなる場合もあるため、慎重な判断が必要になります。

以下では、インスペクションの必要性に3項目に分けて解説します。

  • 売主・買主の実施はあくまで任意
  • ただし「やらない場合のリスク」も理解しておこう
  • インスペクションが不要と考えられるケース(取り壊し前提など)

6-1. 売主・買主の実施はあくまで任意

繰り返しになりますが、インスペクションの実施は法律で定められた義務ではありません。「やらなくてもよいか?」と聞かれれば、答えは「はい、やらなくても構いません」となります。
不動産会社から説明や提案はありますが、最終的に実施するかどうかは売主と買主の自由な意思に委ねられています。

6-2. ただし「やらない場合のリスク」も理解しておこう

実施は任意ですが、インスペクションを行わないことによるリスクも理解しておく必要があります。

  • 売主のリスク:自分でも気づかなかった不具合を抱えたまま売却してしまい、引き渡し後に契約不適合責任を問われ、補修費用や損害賠償を請求される可能性がある。
  • 買主のリスク:建物の状態を十分に確認できないまま購入し、住み始めてから重大な欠陥が見つかり、多額の修繕費用がかかってしまう可能性がある。

インスペクションは、これらのリスクを低減するための有効な手段です。

6-3. インスペクションが不要と考えられるケース(取り壊し前提など)

とはいえ、すべての物件でインスペクションが必須というわけではありません。以下のようなケースでは、実施しないという判断も合理的です。

  • 取り壊しを前提とした土地としての売買:建物の価値を問わないため、調査は不要です。
  • 築年数が非常に浅い物件:新築後2~3年程度で、明らかに劣化が進んでいないと考えられる場合。

ただし、最終的な判断は不動産会社とよく相談して決めることが大切です。
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7. インスペクションと契約不適合責任

近年、インスペクションの有効性は高まっています。
この章では、インスペクション需要の高まりと深い関係のある契約不適合責任について詳しく解説します。

7-1. 2020年民法改正で「契約不適合責任」に。売主の責任が重くなった

2020年4月の民法改正で、従来の「瑕疵(かし)担保責任」に代わり、「契約不適合責任」という考え方が導入されました。
これは、売却した物件が、種類、品質、数量に関して契約書の内容と異なる場合に、売主が負う責任のことです。
契約不適合責任では、買主は売主に対して以下の権利を請求できるようになり、売主の責任は以前より重くなりました。

  • 追完請求:「契約内容と違うので、直してください」という請求。
  • 代金減額請求:修繕がされない場合に、代金の減額を求める請求。
  • 損害賠償請求:損害の賠償を求める請求。
  • 契約解除:契約不適合が重大で、契約目的を達成できない場合に、契約自体を解除する請求です

7-2. インスペクションは売主をトラブルから守る有効な手段

契約不適合責任は、あくまで「契約書の内容と異なる」場合に発生します。
逆に言えば、建物に不具合があったとしても、その内容が契約書にきちんと書かれており、買主がそれを理解・納得した上で契約していれば、売主は責任を負う必要がなくなるのです。

例えば、雨漏りをしている物件でも、売買契約書に「この物件の屋根には雨漏り箇所があり、買主はこれを容認する」と明記されていれば、引き渡し後にその雨漏りを理由に責任を追及されることはありません。
この「事前に建物の状態を明らかにし、契約書に明記する」というプロセスにおいて、インスペクションは最も有効な手段となります。専門家の客観的な調査結果があることで、建物の状況を正確に契約書に記載できるからです。

7-3.【注意】インスペクションをしても責任が免除されるわけではない

ここで注意したいのは、インスペクションを実施したからといって、契約不適合責任がすべて免除されるわけではないという点です。
インスペクションは目視が基本であり、調査には限界があります。調査で見つからなかった不具合(隠れた瑕疵)が後から発見された場合、売主が責任を問われる可能性はゼロではありません。
しかし、事前に調査を尽くしたという事実は、万が一のトラブルの際に売主の誠実な対応を示す証拠となり、紛争解決を有利に進める助けになります。

8. どこに頼む?インスペクターの資格と業者選びの注意点

インスペクションを依頼する際には、信頼できる専門家を見つけることが重要です。ここでは、インスペクターの選び方と注意点について解説します。

8-1. 依頼すべきは「既存住宅状況調査技術者」の資格を持つ専門家

インスペクションを依頼する上で最も重要なのは、適切な資格を持った専門家に依頼することです。
宅地建物取引業法で定められたインスペクション(既存住宅状況調査)を行えるのは、国の登録講習を修了した建築士、「既存住宅状況調査技術者」だけです。

民間の会社が「ホームインスペクション」や「住宅診断」といった名称で類似のサービスを提供していますが、それらが必ずしもこの資格者による調査とは限りません。後述する「瑕疵保険」への加入を考えている場合は、この資格者による調査が必須となるため、必ず確認しましょう。

8-2. 信頼できるインスペクターの探し方(公的検索サイトの活用)

信頼できるインスペクターを探すには、主に以下の2つの方法があります。

  • 不動産会社に紹介してもらう:最も手軽で安心な方法です。取引を依頼している不動産会社は、提携している信頼できる調査会社を知っていることが多いです。
  • 公的な検索サイトで自分で探す:以下のサイトでは、お住まいの地域の「既存住宅状況調査技術者」を検索できます。
    既存住宅状況調査技術者 検索サイト

8-3. 業者選びで失敗しないための3つのポイント

業者を選ぶ際には、以下の3つのポイントを確認しましょう。

  • 資格の有無:前述の「既存住宅状況調査技術者」が在籍しているか。
  • 実績と評判:これまでの調査実績は豊富か、口コミの評判は良いか。
  • 報告書のサンプルと料金体系:報告書は分かりやすいか、料金に何が含まれているか(オプション料金など)を事前に確認する。

悪質な業者の場合、不要なリフォーム工事を勧めてくるケースも稀にあります。複数の業者から見積もりを取り、サービス内容を比較検討することをおすすめします。

インスペクションで悩んだら不動産会社に相談を!

初めて不動産を売買する方の中には、インスペクションでチェックするべきところがわからなくて不安な方もいらっしゃるかと思います。お悩みがある場合は、不動産会社に相談してください。

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9. 買主からインスペクションを依頼されたら?

売却活動中に、購入希望者から「インスペクションを実施させてほしい」と依頼されることもあります。その際の対応について解説します。

9-1. 申出は基本的に協力するのが望ましい

買主からのインスペクションの申し出を断ることも可能ですが、正当な理由なく拒否すると、「何か隠したい欠陥があるのでは?」と疑念を抱かれ、取引が破談になる可能性があります。
買主の不安を解消し、円滑に取引を進めるためにも、基本的には協力的な姿勢で応じるのが望ましいでしょう。

9-2. 依頼を受けるタイミングと合意書の締結

買主からの依頼を受けるタイミングは、購入申込書(買付証明書)が提出された後に限定するのが一般的です。購入意欲の低い人の興味本位の調査に応じる負担を避けるためです。
また、調査に応じる際は、トラブル防止のために事前に売主と買主との間で「インスペクションに関する合意書」を締結しておきましょう。合意書には、主に以下の内容を盛り込みます。

  • 調査の範囲と日時
  • 費用負担者(通常は買主)
  • 調査結果の取り扱い(第三者への漏洩禁止、売主への結果共有など)

9-3. 調査結果の指摘にどう対応するか

買主が実施したインスペクションで不具合が指摘された場合、売主として誠実に対応することが求められます。

修繕を要求された場合

必ずしも応じる義務はありませんが、修繕しなければ買主は購入を見送る可能性があります。修繕費用と売却機会を天秤にかけ、不動産会社と相談しながら対応を決めましょう。

価格交渉をされた場合

指摘された不具合の程度に応じて、価格交渉に応じるのも一つの選択肢です。

10. セットで検討したい「既存住宅売買瑕疵保険」

インスペクションと密接に関連するのが「既存住宅売買瑕疵(かし)保険」です。

10-1. 瑕疵保険の仕組みとメリット

瑕疵保険とは、売却した中古住宅に、後からインスペクションの対象範囲(構造・雨漏り)で欠陥(瑕疵)が見つかった場合、その補修費用などを保険金でまかなえる制度です。

  • 売主のメリット:万が一、契約不適合責任を問われても、補修費用を保険でカバーできるため、安心して売却できます。
  • 買主のメリット:保険付きの物件ということで、安心して購入できます。万が一の時も、売主との直接交渉なしに保険法人に補修費用を請求できます。

保険料は建物の規模によりますが、保証期間1年・保証額500万円のプランで4万円~6万円程度です。

既存住宅売買瑕疵保険の仕組み

10-2. 加入するための2つの要件(インスペクション合格と新耐震基準)

この瑕疵保険に加入するためには、以下の2つの要件を満たす必要があります。

  1. 保険法人が指定する検査事業者によるインスペクションに合格していること(調査日から1年以内)。
  2. 原則として、1981(昭和56)年6月1日以降に建築確認を受けた「新耐震基準」に適合した建物であること。

つまり、瑕疵保険に加入するには、インスペクションの実施が前提となります。

10-3. 築古物件こそ瑕疵保険が有効な理由

瑕疵保険と税制メリットの関係

瑕疵保険には、もう一つ大きなメリットがあります。それは、通常は適用対象外となる古い物件でも、買主が住宅ローン控除などの税制優遇を受けられるようになることです。
木造戸建てで築20年超、マンションで築25年超の物件は、原則として住宅ローン控除の対象外ですが、この瑕疵保険に加入することで対象となります。
そのため、特に築古物件を売却する際は、インスペクションを実施して瑕疵保険を付保することで、物件の付加価値が格段に上がり、買主が見つかりやすくなります。

10-4. 保険の対象と支払限度額

瑕疵担保保険の対象となる部分は、インスペクションの調査対象範囲である構造耐力上主要な部分と雨水の浸入を防止する部分です。

保険期間と1住戸あたりの支払限度額は以下のように決まっています。

保証対象部分 保険期間 1住戸あたりの支払限度額
構造体力上主要な部分 5年間 1,000万円
雨水の浸入を防止する部分 1年間 500万円または1,000万円

保険金の支払い対象となる主な費用は、補修費用、事故調査費用、転居・仮住まい費用等です。

保険料の相場は以下の通りです。金額は住戸の面積が広いと高くなります。

保証期間 1年 5年
保証金額 500万円 1,000万円 1,000万円
戸建て 3.9万円~5.5万円程度 4.0万円~5.6万円程度 5.8万円~10.1万円程度
マンション 3.1万円~4.0万円程度 3.2万円~4.1万円程度 3.9万円~6.1万円程度

瑕疵担保保険は、要件を満たしていれば売主又は買主のいずれかで加入することができます。
実際には検査機関が間に入って加入しますので、所有者が変わったとしても保険料が支払われる仕組みになっています。

まとめ

いかがでしたか。
インスペクションについて、網羅的に解説しました。

インスペクションは、中古住宅の売買における「健康診断」であり、売主と買主の双方にとって多くのメリットがあります。

  • 建物の状態を客観的に把握でき、安心して取引できる
  • 売却後のトラブル(契約不適合責任)のリスクを減らせる
  • 瑕疵保険に加入できれば、さらに安心感が高まり、物件の価値も上がる

費用や手間はかかりますが、それを上回る安心と価値をもたらしてくれる有効な手段です。
インスペクションはまだまだ新しい制度なので、その活用方法も含め、信頼できる不動産会社にしっかり相談することが成功のカギとなります。「不動産売却 HOME4U」を使って、あなたの不動産売却を力強くサポートしてくれるパートナーを見つけてください。