短期譲渡所得とは?長期譲渡所得との違いや計算方法、譲渡損失の扱いについても解説

短期譲渡所得 税金や損失はどうなる?

譲渡所得とは、不動産などの売却で得た利益のことで、資産の所有期間によって「短期譲渡所得」と「長期譲渡所得」に分けられます。譲渡所得に対しては、特別控除が適用されるため、詳細を把握しておきたいところです。

本記事では、譲渡所得の概要、短期・長期譲渡所得の税率と計算方法、損失がでたときの対応などについて解説します。

この記事を読むと分かること
  • 譲渡所得の基礎知識と短期譲渡所得、長期譲渡所得の違い
  • 短期譲渡所得税、長期譲渡所得税の計算方法
  • 不動産の譲渡で損失がでた際の損益通算における注意点
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1.譲渡所得の基本情報

売り出し中の家

まずは、譲渡所得の概要、課税方法について解説します。

1-1.そもそも譲渡所得とは?

譲渡所得とは、土地や建物などを譲渡して得る所得のことです。

所得とは、収入から経費を差し引いた金額を指します。つまり、不動産の譲渡所得とは、売却価格から取得時や売却時の諸経費を差し引いた金額のことです。

不動産だけでなく、有価証券やゴルフ会員権、船舶や車両などの資産を譲渡して得た所得も、譲渡所得に含まれます。

1-2.譲渡所得は課税方法が異なる

不動産の売却で得た譲渡所得に対しては、譲渡所得税が課税されます。譲渡所得税は、所得税(復興特別所得税を含む)と住民税を合算して課税されます。

譲渡所得税の課税方法には、総合課税と分離課税の2種類があります。

総合課税とは、すべての所得を合算したうえで、課税所得を計算する方法です。

一方、分離課税とは、ほかの所得と合計せず、分離して所得税を計算する方法で、不動産の譲渡所得には「分離課税」が適用されます。分離課税では、所得の金額によって税率が変動します。

さらに、不動産の譲渡所得に対する分離課税においては、資産の保有年数に応じて、譲渡所得を「短期譲渡所得」と「長期譲渡所得」に分類します。

2.短期譲渡所得と長期譲渡所得の違い

次に、短期譲渡所得と長期譲渡所得の概要と、税率の違いについて解説します。

2-1.短期譲渡所得、長期譲渡所得とは?

短期譲渡所得とは、譲渡所得のうち、所有期間が5年以下のものを指します。厳密には、取得日から起算し、譲渡した年の1月1日時点での所有期間が5年以下の資産のことです。

一方、長期譲渡所得とは、所有期間が5年以上の資産の譲渡所得のことです。資産を譲渡した年の1月1日時点で、所有期間が5年以上の場合に適用されます。

ただし、資産の所有期間が5年前後の場合、短期譲渡所得か長期譲渡所得かの判断が難しいケースもあるでしょう。そのため、取得日の定義と所有期間の考え方を正しく把握する必要があります。

資産の「取得日」とは、文字どおり、資産を取得した日のことです。ただし、不動産を例にとると、取得方法によって取得日の解釈は異なります。

  • 第三者から不動産を購入した場合は「引き渡しを受けた日」
  • 第三者が建設を請け負うマンションは「引き渡しを受けた日」
  • 自ら建設した不動産は「建設が完了した日」
  • 相続や贈与で得た不動産は、「被相続人や贈与者の取得日」を引き継ぐ

一方の「譲渡日」とは、資産を第三者に譲渡して「引き渡しを行なった日」のことです。ただし、売買契約を締結した日を、確定申告に基づいて譲渡日とするケースもあります。

2-2.短期譲渡所得、長期譲渡所得の税率の違い

短期譲渡所得、長期譲渡所得の税率の違い

短期譲渡所得と長期譲渡所得では、以下のとおり税率が異なります。

課税方法 税率(所得税) 税率(住民税)
短期譲渡所得 30% 9%
長期譲渡所得 15% 5%

ただし、短期譲渡所得・長期譲渡所得を問わず、令和19年(2037年)までは復興特別所得税として、毎年の基準所得税額の2.1%が上乗せされます。

2-3.短期譲渡所得の税率が高い理由

上記の表を見ると、短期譲渡所得と比べて長期譲渡所得の税率が明らかに優遇されていることがわかります。短期譲渡所得の税率が高いのは、いわゆる土地転がしを抑制するという明確な目的があるためです。

不動産価格が上昇し続けたバブル景気の当時、短期間の土地の売買で利益を得る投資家が続出しました。その結果、不動産は投機(※)目的で次々に買い占められ、自宅用の不動産が欲しい方に行き渡らなくなる、という事態に発展しました。

短期間での土地の売買を抑制するために短期譲渡所得の税率を引き上げた、という過去の経緯が税率に表れています。

※投機:「安いときに買い、高いときに売る」といったように、相場価格の変動を利用して利益を得るために行なう、短期的な取引のこと。

3.短期譲渡所得の計算方法

売買契約書

譲渡所得は、「譲渡所得額=収入金額-(取得費+譲渡費用)-特別控除額」の計算式で求められます。

短期譲渡所得の計算方法

計算式にある収入金額、取得費、譲渡費用、特別控除額の詳細について解説します。

3-1.短期譲渡所得の計算方法|収入金額の内訳

収入金額とは、資産を売却して受け取った金額のことです。

ただし、不動産を年の途中で売却した場合、固定資産税と都市計画税の清算金も含まれます。固定資産税の納税義務者は1月1日時点の所有者であるため、売主と買主で精算しなければなりません。

売主が支払った1年分の固定資産税のうち、譲渡日から年末までの税金は買主の負担となるのが基本です。なお、受け取った清算金は、譲渡収入とみなされるため、収入金額に含める必要があります。

一方、売主が負担した管理費や修繕費の清算金は、収入金額に含まれません。

3-2.短期譲渡所得の計算方法|取得費の内訳

取得費とは、売却した資産を取得するために生じた費用のことです。不動産の場合、譲渡所得における取得費には、以下のようなものが挙げられます。

  • 土地や建物の購入代金
  • 仲介手数料
  • 購入後の改良費、設備費、整地費など
  • 登録免許税
  • 不動産取得税
  • 印紙税

取得費の詳細が不明な場合には、売却価格の5%相当の額を取得費として設定することも可能です。

さらに、費用の合計から「減価償却費相当額」を差し引いた金額が、最終的な取得費となります。

不動産の譲渡所得における減価償却費とは、建物の取得にかかった費用を、一定の年数で分割して毎年計上するものです。計算式にある減価償却費相当額については、建物が事業用の資産かどうかで計算方法が変わります。

事業に使用した建物であれば、減価償却費相当額は不動産の取得から売却までの減価償却費を合計した金額になります。

一方、事業に使用していない建物の場合、「減価償却費相当額=建物の取得価額×0.9×償却率×経過年数」で求めることができます。計算式にある償却率とは、減価償却資産を耐用年数などに応じて変動させる値で、減価償却費の計算に用いられます。

非事業用の建物における、構造別の耐用年数、償却率は次のとおりです。

構造 耐用年数 償却率
木造 33年 0.031
木骨モルタル 30年 0.034
鉄骨鉄筋コンクリート
鉄筋コンクリート
70年 0.015
金属造(※1) 28年 0.036
金属造(※2) 40年 0.025
金属造(※3) 51年 0.020

(※1)軽量鉄骨造のうち骨格材の肉厚が3mm以下の建物
(※2)軽量鉄骨造のうち骨格材の肉厚が3mm超、4mm以下の建物
(※3)軽量鉄骨造のうち骨格材の肉厚が4mm超の建物

経過年数については、6ヵ月以上は1年として、6ヵ月未満は切り捨てて計算します。また、減価償却費相当額は、建物を取得した金額の95%を限度とします。

3-3.短期譲渡所得の計算方法|譲渡費用の内訳

譲渡費用とは、資産を譲渡するときに発生した費用のことです。

不動産における代表的な譲渡費用の項目には、以下のような諸経費が挙げられます。

  • 不動産会社に支払う仲介手数料
  • 売買契約書の印紙代(売主負担分)
  • 購入時や相続時の登記費用(司法書士の報酬も含む)
  • 測量費用
  • 建物の取り壊し費用(建物を取り壊して土地だけを売るとき)
  • 立ち退き料(貸家の売却で借家人に家を明け渡してもらうとき)
  • 違約金(売買契約後、ほかの第三者に高く売るとき)
  • 買主を探すための広告費

3-4.短期譲渡所得の計算方法|特別控除額の概要と控除の金額

譲渡所得の特別控除とは、一定の条件を満たすと所得から一定額が控除される特例のことです。取得費、譲渡費用に特別控除額を加え、収入金額から差し引くため、譲渡所得税の負担が軽減されます。

居住用のマイホームを譲渡した場合、最高3,000万円の特別控除が適用されます。マイホームの所有期間は問われないため、短期譲渡所得、長期譲渡所得のどちらでも利用可能です。

3,000万円特別控除の特例を受けるには、以下の要件を満たす必要があります。

  • マイホームであること
    ※売主が現在住んでいる家屋、家屋と敷地、または借地権を売ること
    ※現在住んでいない場合、転居してから3年後の年末までに家屋を譲渡すること
    ※家屋を解体した場合、次の2つの要件をいずれも満たすこと
     (1)1年以内に譲渡契約を締結、かつ転居から3年後の年末までに譲渡すること
     (2)家屋の取り壊し後、譲渡契約締結までに敷地を賃貸していないこと
  • 譲渡した年、その前年、前々年にマイホームに関する特例の適用を受けていないこと
  • 譲渡した家屋や敷地などに、収用等の特例の適用を受けていないこと
  • 災害で滅失した家屋の場合、住まなくなってから3年後の年末までに譲渡すること
  • 売主と買主が、夫婦や親族、同族会社などの特別な関係ではないこと

参考:“No.3302 マイホームを売ったときの特例”. 国税庁

譲渡所得の特別控除は、自分が住むために購入したマイホームが対象であるため、新築に伴う仮住まいや、趣味や娯楽を目的とした別荘などには適用できません。マイホームの特別控除を受けるには、納税額を問わず、確定申告を行なうのが基本です。

「譲渡所得額=収入金額-(取得費+譲渡費用)」の計算式に基づき、以下の条件で短期譲渡所得の金額をシミュレーションします。

  • 所有期間:3年(鉄筋コンクリート造)
  • 収入金額:4,000万円
  • 購入価格:3,000万円(建物の取得価額2,500万円)
  • 取得費用:100万円
  • 譲渡費用:200万円

【減価償却費相当額】
建物の取得価額2,500万円×0.9×償却率0.015×3年=101万2,500円

【短期譲渡所得】
収入金額4,000万円-取得費2,998万7,500円(※)-譲渡費用200万円=801万2,500円

(※)購入価格3,000万円+取得費用100万円-減価償却費101万2,500円

3-5.短期譲渡所得の計算方法|譲渡所得で税額を計算

上記の計算方法で譲渡所得を求めたら、短期譲渡所得の税率を乗じることで税額を計算できます。

計算例の短期譲渡所得を「800万円」とした場合、所得税、住民税、復興特別所得税の金額、および譲渡所得税額は次のとおりです。

税金の種類 税額
所得税 800万円×30%=240万円
住民税 800万円×9%=72万円
復興特別所得税 240万円(所得税額)×2.1%=5万400円
譲渡所得税 317万400円

なお、このシミュレーションは、マイホームの特別控除を適用しないパターンです。3,000万円の控除が受けられる場合、譲渡所得税の支払いは免除されます。

4.譲渡損失の対応と損益通算の注意点

譲渡所得の内訳書

不動産を売却したものの、譲渡所得の計算上ではマイナスとなってしまうケースも少なくありません。このように、資産の売却によって生じる損失のことを、「譲渡損失」と呼びます。

譲渡損失が発生した場合には、課税対象から除外されます。そのため、譲渡所得税の納税に加え、確定申告をする必要もありません。

ただし、ほかに譲渡所得があるときは、確定申告により損失の金額を控除することが可能です。このように、黒字の所得から赤字分の所得を差し引くことを「損益通算」と呼びます。所得税の節税につながるため、赤字であっても必ず確定申告を行ないましょう。

なお、短期譲渡所得では控除した損失が残ったとしても、ほかの所得と損益通算できない点に注意が必要です。

長期譲渡所得では、譲渡損失で控除しきれない分を譲渡した年の翌年から3年間繰り越して控除できる、以下の「特例」を利用できます。

  • 特定のマイホームの譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例
  • マイホームを買い換えた場合の譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例

長期譲渡所得と比べ、短期譲渡所得は譲渡損失に対するカバーが手薄なことを心得ておきましょう。

まとめ

土地や建物の売却で得た譲渡所得に対しては、分離課税方式で譲渡所得税が課されます。

所有期間が5年以下の短期譲渡所得にかかる譲渡所得税は、税率が高い点に注意が必要です。ただし、いくつかの要件を満たせば、3,000万円特別控除が適用されます。今回紹介した方法で譲渡所得を計算し、譲渡所得税が課税されるかどうかを確認しましょう。

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