相続人と連絡が取れない場合の対処法!手続きの流れと注意点

相続人 連絡とれない

「遺産相続で、相続人の一人と連絡が取れず手続きが進められない」とお困りではないでしょうか?

この記事では、相続人と連絡が取れないときの対処法と、手続きを進める流れを注意点を含めて不動産の専門家の観点からお伝えします。

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1. 相続人と連絡が取れないまま手続きを進められる?

相続人と連絡が取れないまま手続きを進められるかどうかは、遺言書の有無に左右される

相続人と連絡が取れないまま手続きを進められるかどうかは、遺言書の有無に左右されます。

遺言書がない場合は、所在不明や無視・音信不通の相続人を放置して遺産分割協議を進められません。
民法907条により、遺産分割協議は「共同相続人全員の合意」が前提と規定されているからです。

一方で有効な遺言書さえあれば、相続人とまったく連絡が取れなくても遺産分割は可能です。
その場合は、連絡の取れない相続人を探す必要はありません。

また、相続手続きには期限があります。期限を超過しないために、「期限リスト」でタイムリミットを把握しておきましょう。

相続手続きの期限一覧
相続税の申告・納付 死亡から10か月以内。期限超過で延滞税が発生。
相続登記(義務化) 不動産取得を知った日から3年以内(2024/4/1より施行)。正当な理由なく遅れると 過料10万円以下。
空き家譲渡の3,000万円特別控除 死亡から3年目の年末までに売却契約。期限を過ぎると特別控除が使えず、売却益に課税。
固定資産税の年次課税 毎年1月1日時点の所有者に課税。協議が長期化すると空き家でも課税が続き、費用負担が増える。
準確定申告(被相続人の所得税) 死亡から4か月以内。延滞税・無申告加算税が発生。相続人が連帯で納付責任を負う。

遺言書がないケースでは相続人と連絡をとる必要があるので、次章でどのような対処法をとるべきかを確認しましょう。

2. 相続人と連絡が取れない場合の対処法をチェック

相続人と連絡が取れない場合の原因を把握しておきましょう。原因は主に「心理的に連絡をとりづらい」と「物理的に連絡が不可能」の2つに分かれると考えられます。

「心理的に連絡をとりづらい」ケースは、以下の状況が想定されます。

会ったことがない人だから連絡しづらい
  • 被相続人の前妻・前夫との子など“面識ゼロ”の相続人がいる
  • 名字が変わっており、戸籍で親族関係は判明しても「いきなり連絡したら失礼では?」と二の足を踏む
不義理や不仲で連絡しづらい 過去に何らかのいざこざがあり、顔を合わせにくい

こうした事情があったとしても、手続きを進める必要があるので、連絡先がわかれば勇気を出して手紙を出してみましょう。

「物理的に連絡が不可能」ケースは、以下のような状況が該当します。

音信不通(居所・消息が不明)
  • 引っ越しや海外転居で住所が無効
  • 郵便が「あて所に尋ねあたりません」で返送
連絡はできるが返事が来ない
  • Eメールや手紙を送っても返信ゼロ
  • 電話番号は生きているが留守電・無視

このような事情で連絡ができない場合、以下のフローチャートで対処法を確認しましょう。

相続人と連絡が取れないときの対応の流れ

流れを把握したら、まずは連絡をとる方法を次章でご確認ください。

3. 【状況別】相続人と連絡が取れない場合の対処法

相続人と連絡が取れないときは、状況に合わせ、以下のいずれかの対処法を講じましょう。

相続人と連絡が取れないときの対処法

3-1. 相続人の住所が不明:「戸籍附票」「登記簿謄本」を取得

相続人の住所が不明の場合は、「戸籍の附票」と「登記簿謄本」を取得しましょう。

戸籍の附票を辿れば現住所がわかります。
戸籍の附票とは、本籍地の市町村において戸籍の原本と一緒に保管している書類です。
戸籍の附票を取得する手続きは、本籍のある市区町村が窓口となります。
取得費用は1通300円が一般的です。

現住所の不動産の登記簿謄本を取得し、家の所有者かどうかも確認してみることも一つの手です。
不動産の所有者なら固定資産税を支払います。
登記簿謄本に固定資産税の滞納による差押登記がない場合には、固定資産税を払っていることになりますので、きちんと生活していることが窺えます。

「戸籍の附票」「登記簿謄本」のいずれかで現住所を探りましょう。

3-2. 相続人が無視・音信不通:手紙で説得

居場所はわかるのに返事がもらえない場合は、「協議に参加しないデメリット」を穏やかな文面の手紙で伝える と協力を得やすくなります。

手紙で穏便に説得するときのポイントを以下にまとめました。

相手の警戒心を和らげる 「先に知っておいてほしい事実があります」と切り出し、通知ではなく情報共有という印象を与えて相手の警戒心を和らげる。
家族全員の損得を伝える 「固定資産税が年12万円かかり続け、残る財産が減ります」など、家族全員が損をする点を数字で示す。
参加しないデメリットを提示 「協議に参加しないと調停→審判で裁判所が決める可能性があります」「調停になると最低20万円、期間は半年~1年」などと伝え、不参加のデメリットを強調。
「強制でない印象」を与える 「〇月〇日までにご意見をいただけると助かります。ご都合が悪ければご相談ください」と譲歩の余地を残し、強制感を和らげる。
心理的圧力を与えない郵送手段 最初は配達証明郵便を送付し心理的圧力を軽減。内容証明は次段階に。
協議の公平性を伝える 「法定相続分を前提に公平に話し合いますのでご安心ください」と伝え、不安を取り除く。
専門家名義の文書を添える 第三者(司法書士・弁護士)の中立的コメントを添えると客観性が高まり、「脅し」ではなく「公式アドバイス」と思わせられる。
連絡手段を複数提示 電話・メール・オンライン面談・返信用封筒など、相手の負担が少ない手段を示し「ご都合の良い方法で」と柔軟性をアピール。
感謝+協力要請で締める 「お忙しいところ恐れ入りますが、ご協力いただけますと大変助かります」など礼儀正しい結びで敵対感を和らげ、返答率アップ。

参考までに、上記のポイントを踏まえた例文をご覧ください。

拝啓 ○○様

このたびは相続手続きにつきまして、
ご負担をおかけしない形で進めたいと考え、ご連絡差し上げました。

現在、相続財産の固定資産税が年間12万円発生しており、
協議が滞るほど家族全体の負担となります。

もし協議がまとまらない場合、
家庭裁判所での調停(平均6〜12か月・費用数十万円)が必要になります。

一方、今ご参加いただければ、
オンラインで30分程の確認だけで手続きが完了します。

つきましては、〇月〇日までにご都合をお知らせいただければ幸いです。
ご不明点は同封の司法書士事務所までお気軽にお問い合わせください。

何卒ご協力のほどよろしくお願い申し上げます。          敬具
  

4. 相続人と連絡が取れない場合の法的手段

相続人と連絡が取れず、話し合いができない状況であれば、法的手段を取らざるを得ません。
状況ごとに以下の方法で対処しましょう。

相続人と連絡が取れないときの法的手段

4-1. 不在者財産管理人の申し立て

連絡が取れない相続人の現住所が分からない場合や、現住所が分かってもそこに当人が住んでいない場合には、不在者財産管理人を申立てる方法があります。

不在者財産管理人とは行方不明の人に代わって財産を管理する人です。
不在者財産管理人は家庭裁判所へ申し立てる必要があります。

必要書類は、以下の通りです。

  1. 不在者財産管理人選任の申立書
  2. 標準的な申立添付書類
  • 不在者の戸籍謄本(全部事項証明書)
  • 不在者の戸籍附票
  • 財産管理人候補者の住民票又は戸籍附票
  • 不在の事実を証する資料
  • 不在者の財産に関する資料(不動産登記事項証明書,預貯金及び有価証券の残高が分かる書類(通帳写し、残高証明書等)等)
  • 利害関係人からの申立ての場合、利害関係を証する資料(戸籍謄本(全部事項証明書)、賃貸借契約書写し,金銭消費貸借契約書写し等)
    1. 収入印紙800円
    2. 連絡用の郵便切

    不在者財産管理人の候補者は、行方不明人と利害関係がない人物か、弁護士や司法書士を候補者にして申立書に記載します。
    遺産分割協議を行う他の相続人は候補者にはなれません。

    また、不在者財産管理人は財産管理のみを行う人であるため、そのままでは不在者財産管理人が遺産分割協議書の作成に参加できないのが原則 です。

    ただし、「権限外行為許可」という手続によって裁判所の許可が得られれば、不在者財産管理人が遺産分割協議に参加することができます。

    裁判所の許可が下りたら、不在者財産管理人が遺産分割協議に参加し、行方不明人に代わって遺産分割協議書に署名捺印をしてもらってください。

    4-2. 遺産分割調停の申し立て

    話し合いがまとまらない場合は、家庭裁判所に遺産分割調停の申し立てをします。
    戸籍謄本や附票から相続人の住所がわかれば、申し立てが可能です。

    裁判の申し立てをしても相続人と連絡が取れない場合は、遺産分割審判に進みます。
    裁判所の指示に沿って遺産分割を行いましょう。
    欠席が続けば審判で裁判官が分割内容を決定するため、協議が前進します。
    相続に協力的ではない相続人がいる場合は、早い段階で司法書士や弁護士などの専門家に相談してください。

    4-3. 失踪宣告の申し立て

    生死不明が7年以上続く場合、失踪宣告で法律上「死亡」とみなすことができます。
    宣告確定後は行方不明者の相続分が解消され、残りの相続人で遺産分割が可能になります(要公告期間1年)。

    失踪宣告を受けるには、家庭裁判所へ申し立てる必要があります。

    手続きの必要書類は、以下の通りです。

    1. 失踪宣告の申立書
    2. 標準的な申立添付書類
  • 不在者の戸籍謄本(全部事項証明書)
  • 不在者の戸籍附票
  • 失踪を証する資料
  • 申立人の利害関係を証する資料(親族関係であれば戸籍謄本(全部事項証明書))
    1. 収入印紙800円分
    2. 連絡用の郵便切手
    3. 官報公告料4,816円

    費用の中に官報公告料がありますが、失踪宣告では裁判所が官報によって「不在者捜索の広告」を行います。

    1~1.5年程度捜索することになりますので、失踪宣告を受けるまでには時間がかかるのが特徴 です。

    5. 相続人から連絡がとれないまま放置するリスク

    法定相続人と連絡が取れない場合でも、そのまま放置してはいけません。
    放置すると、相続手続きが進められず、さまざまな問題が発生するためです。

    放置した場合に想定されるケース

    • 持ち主不在の空き家になる
    • 家を売ることも壊すこともできない
    • 老朽化した家が崩壊して近隣住民とのトラブルに発展

    持ち主不在の空き家は所有者不明土地として、国全体で問題になり、トラブルも起きています。
    そのため、この、問題を解消するために2021年4月21日に、民法(不動産登記法等)が改正され、相続登記に関しては2024年から義務化されます。
    改正のポイントは以下の通りです。

    改正点 改正によるポイント
    相続登記と住所変更登記の義務化
    (2024年4月1日施行※)
    所有者不明土地の発生を予防する。
    相続の手続きをせずに放置した場合、罰金の対象となる。
    相続土地の国庫帰属制度の創設
    (2023年4月27日施行※)
    所有者不明土地の発生を予防する。
    相続した土地が不要な場合、土地の所有権を国に対して返すことができる
    土地利用の円滑化のための制度の導入 所有者不明土地・建物の管理制度の新設により、所有者不明土地の円滑利用を図る

    ※ただし、さかのぼって適用されるため、施行される前も相続登記を行っておく必要があります。(2021年4月以降に相続した場合も相続登記が必要です)

    不動産取得を知ったときから3年以内に相続登記の申請をすることが義務づけられ、正当な理由なく申請しない場合には、10万円以下の過料の対象となります。

    そのため、相続後は必ず不動産の名義変更を行ってください。
    また、現在相続人と連絡がとれず、所有者不明土地の取り扱いに困っている方は、所有者不明土地・建物の管理制度を利用できます。
    相続人と連絡が取れなくなった場合は、家庭裁判所に申し立てを行いましょう。不在者財産管理人を立て、相続放棄や、遺産分割調停の手続きをします。

    6. 相続人と連絡が取れない問題に関するよくある質問

    • Q
      手紙や訪問でも反応がない場合はどうしたらいい?
      A
      内容証明郵便で「協議に参加しないデメリット」を具体的に伝え、それでも無視されれば 家庭裁判所に不在者財産管理人の選任を申立てます。管理人が選任されれば、その人と遺産分割協議を行うことが可能です。
    • Q
      不在者財産管理人と失踪宣告はどう違う?
      A
      不在者財産管理人は、行方不明者が生存している前提で財産を代理管理する制度。選任後に管理人が協議に参加します。
      失踪宣告は、7年以上生死不明なら「法律上死亡」とみなし、相続を確定させる手続きです。宣告後は行方不明者の法定相続人が新たに相続人になります。
    • Q
      不在者財産管理人を選任するとどれくらい時間と費用がかかる?
      A
      申し立てから選任までは 1〜2か月が目安です。裁判所に納める予納金として 数万円〜数十万円が必要な場合がありますが、相続財産から充当できるケースが多いです。
    • Q
      連絡が取れない相続人がいても不動産は売却できる?
      A
      不在者財産管理人の許可や、調停・審判を経れば売却は可能です。
    • Q
      専門家に依頼したほうが良いタイミングはいつ?
      A
      所在調査の段階で行き詰まったとき、または 裁判所手続きが視野に入ったときが目安です。弁護士・司法書士が戸籍収集から申立書類作成、調停代理まで一括サポートしてくれます。相談は早いほど時間と費用を抑えられます。
    • Q
      不在者財産管理人による遺産分割の注意点は?
      A

      不在者財産管理人によって遺産分割協議をする場合には、行方不明者の法定相続分を下回る遺産分割はできないという点が注意点です。

      不在者財産管理人は、行方不明者の相続人が不利益を受けないように財産を管理することが使命であるため、行方不明者の法定相続分を下回るような遺産分割を認めません。

      例えば、相続人が配偶者と子供2人の場合、法定相続分は配偶者が1/2、子供が1/4ずつということになります。

      子のうち、1人と連絡が取れず不在者財産管理人が遺産分割協議に参加する場合には、最低でも1/4は行方不明者に配分するような遺産分割をしなければならないということです。

      遺産分割協議が終わっても、不在者財産管理人は、任務が終わるまで行方不明者の財産を管理する必要があります。

      そのため、このケースで不動産を売却したい場合には、残りの3/4の中に売却したい人の分を先に配分した上で名義変更することになります。

    • Q
      失踪宣告による遺産分割の注意点は?
      A

      失踪宣告は、失踪宣告を受けるまでには時間がかかることに注意が必要です。

      例えば相続税の申告と納税は、相続開始を知った日の翌日から10ヶ月以内ですので、相続税の納税のために不動産を売却する場合には、1年以上もかかる失踪宣告では時間が足りません。

      不動産を急いで売却する必要のある方は、不在者財産管理人を活用して遺産分割協議を行うことが現実的な選択肢です。

      ただし、連絡の取れない当人が他界している可能性が高い場合には、不在者財産管理人が「不在者が失踪宣告される」等の要件が揃わないと任務が解任されないため、失踪宣告も行うようにしてください。

      また、失踪宣告の場合、失踪者が現れたら相続権は復活します。
      財産が手元に残っている場合や売却して現金に換えた場合でも、失踪者に返却することが必要です。

    まとめ

    相続人の一人と連絡が取れないときの「不動産売却手続き」について解説しました。

    相続人の一人と連絡が取れないときは、遺言書から探すことが最初のステップです。
    遺言書が見つからない場合には、相続人を探し出すことになります。

    相続人は「戸籍の附票」によって現住所を割り出します。
    現住所が分からない場合や、分かっても不在の場合には、不在者財産管理人や失踪宣告の申立をすることが次のステップです。

    名義変更が終われば、次のステップは査定です。
    不動産査定は、名義変更の「前」でも「後」でも依頼可能です。

    査定時に便利なのが、NTTデータ・ウィズが運営する「不動産売却 HOME4U (ホームフォーユー)」です。
    不動産売却 HOME4Uは、全国の約2,500社から最大6社へ無料でまとめて査定依頼ができます。
    名義変更「前」なら机上査定、名義変更「後」なら訪問査定を依頼するのが良いでしょう。

    この記事の執筆者
    竹内 英二
    不動産鑑定士事務所および宅地建物取引業者である(株)グロープロフィットの代表取締役を務める。 不動産鑑定士、宅地建物取引士、賃貸不動産経営管理士、不動産コンサルティングマスター(相続対策専門士)、中小企業診断士。
    (株)グロープロフィット