危険負担とは?2020年の民法改正や買主・売主が注意すべきポイントを解説

危険負担とは 民法の改正や注意点を解説

売買契約における危険負担とは、「債務者の責任を問えない理由で一方の債務が履行できなくなった場合のリスクをどちらが負担すべきか」という問題のことです。

本記事では、危険負担の概要や民法の改正点、不動産売買における買主・売主が注意すべきポイントについてわかりやすく解説します。スムーズな不動産取引のためにも、ぜひ参考にしてください。

この記事を読むと分かること
  • 危険負担の基礎知識
  • 2020年(令和2年)の民法改正による危険負担の改正点
  • 危険負担に関して不動産の売買で注意すべきポイント
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1.危険負担とは?

危険負担とは、売買などの双務契約で「債務者の責任を問えない理由で一方の債務が履行できない状態に陥った場合、そのリスクをどちらの当事者が負担すべきか」という問題のことです。

例えば、不動産取引において戸建て住宅の売買契約を結んだら、売主は買主から代金を受け取ったあと、物件を引き渡す義務を負います。しかし、引き渡しの直前に災害などによって建物が倒壊し、引き渡しが不可能になった場合にも、買主は支払いをすべきなのかが問題の焦点となります。

以下は、現行の民法の一部を抜粋した内容です。

(債務者の危険負担等)
当事者双方の責めに帰することができない事由によって債務を履行することができなくなったときは、債権者は、反対給付の履行を拒むことができる。

引用:“民法 第五百三十六条一項”. e-Gov法令検索

上記の規定に沿うと、買主は代金の支払い(反対給付)を拒絶可能です。社会通念に基づいて考えても、不可抗力とはいえ目的物がなくなった以上、その対価を払う必要もなくなることは腑に落ちるでしょう。

反対給付とは、当事者の双方が互いに債務を負担する契約における「一方の給付に対する他方の給付」です。不動産取引を例に考えると、売主による「物件の引き渡し」に対して、買主による「代金の支払い」が反対給付に当たります。

危険負担とは

1-1.不動産取引において危険負担が問題になる事例

不動産取引において、危険負担が問題になるのは、以下のようなシーンです。

  • 地震によって住宅が倒壊した
  • 悪意のある第三者に放火されて住宅が焼失した
  • 隣家で起こった火事に巻き込まれて住宅が深刻なダメージを受けた
  • 大雨による土砂崩れに巻き込まれて住宅が流された
  • 津波によって土地が埋もれてしまった

日本は、地震大国と呼ばれるほど地震が多いうえ、大雨や台風による被害も比較的よく起こるため、日頃からさまざまなリスクを抱えているといえるでしょう。

そして、この危険負担を理解するうえで重要なのが、「債権者主義」「債務者主義」という2つの考え方です。

1-2.債権者主義とは?

債権者主義とは、一方の債務が消滅しても、他方の債務は存続するという考え方です。

前述の危険負担が問題になる事例のように、何らかのトラブルで物件が引き渡し前に焼失しても、買主側の債務(代金の支払い)は消えません。

つまり、買主は何も対価がないにも関わらず、お金を負担しなければならないのです。

1-3.債務者主義とは?

債務者主義とは、一方の債務が消滅したら、他方の債務もなくなるという考え方です。

先述の事例に沿って考えると、物件の引き渡しが不可能になった時点で、買主の債務はなくなるため、代金の支払いも不要になります。つまり、買主は物件を取得できなくなりますが、代金を支払う必要もなくなるのです。

後述しますが、現行の民法では、この債務者主義が採用されています。

2.2020年(令和2年)の民法改正による危険負担の改正点は?

民法改正

2020年(令和2年)4月施行の民法改正に伴い、危険負担に関しても以下のような見直しがなされました。

  • 債権者主義の廃止
  • 履行拒絶権の付与
  • 危険の移転時期の規定

ここでは、3つの改正点をそれぞれ詳しく解説します。

2-1.債権者主義の廃止

改正前の民法でも、危険負担に関しては債務者主義が原則でした。ただし、「特定物に関する双務契約を締結した場合」、あるいは「債権者の責任となる理由で履行できない状態に陥った場合」には、例外的に債権者主義を導入していたので、リスクの所在も変わっていたのです。

なお、民法上の特定物とは、当事者が個性に目をつけて取引した目的物を指します。わかりやすく言うと、「代替品を用意できないもの」のことで、具体的には以下のようなものが該当します。

  • 不動産
  • 中古車
  • 絵画

債権者主義に沿って取引をすると、目的物をまだ入手していない状況下で債権者(買主)が多大なリスクを負うため、合理性に欠けるとの声が多く上がっていました。

また、実務面の観点から考えると、当事者間の合意に基づくタイミングを基準に、危険の移転時期が決められていました。

改正後の民法では、この債権者主義が廃止されているため、双務契約における買主のリスクも減っています。不動産取引も例外ではなく、特に買主は安心して取引に臨める状況になったといえるでしょう。

2-2.履行拒絶権の付与

現在は債務者主義に統一されましたが、他方の債務が無条件で消えるわけではありません。

当事者双方に帰責性(責任)がない理由で目的物が消失した場合、債権者には「履行拒絶権」が与えられるため、支払いなどの債務を拒めます。あくまで拒絶が認められる権利を有するだけなので、あらかじめ注意しましょう。

債務を完全に消滅させるには、債権者は債務不履行に基づく解除権を行使し、契約を解除する必要があります。

履行拒絶権

また、改正後は債務者に帰責性がない理由であっても、契約の解除が認められています。一方、債権者に帰責性がある場合、履行の拒絶および契約の解除はできません。

(債権者の責めに帰すべき事由による場合)
債務の不履行が債権者の責めに帰すべき事由によるものであるときは、債権者は、前二条の規定による契約の解除をすることができない。

引用:“民法 第五百四十三条”.e-Gov法令検索

2-3.危険の移転時期の規定

改正前は、どのタイミングから危険が移転するのか、条文に明記されていなかったため、当事者間の合意内容によって危険の移転時期に差異が生じていました。目的物を引き渡すとき、契約を締結したときなど、取引ごとに変わっていたのです。

しかし、民法改正によって危険の移転時期は「引き渡し時」とはっきり明記されました。売買契約の場合、引き渡し前に不履行があった際は売主に、引き渡し後にトラブルが起こった際は買主に責任があると見なされます。

例えば、引き渡し後に帰責性なしで損傷や滅失が起こっても、買主は減額請求や損害賠償請求を行なうことは不可能です。

(目的物の滅失等についての危険の移転)
売主が買主に目的物(売買の目的として特定したものに限る。以下この条において同じ。)を引き渡した場合において、その引渡しがあった時以後にその目的物が当事者双方の責めに帰することができない事由によって滅失し、又は損傷したときは、買主は、その滅失又は損傷を理由として、履行の追完の請求、代金の減額の請求、損害賠償の請求及び契約の解除をすることができない。この場合において、買主は、代金の支払を拒むことができない。

引用:“民法 第五百六十七条”.e-Gov法令検索

3.危険負担が適用されない状況とは?

壊れた家の中

引き渡し前に損傷などが発生しても、買主・売主のどちらかに過失があった場合、危険負担の適用対象から外れてしまいます。

不動産で例えると、買主が物件の内覧に訪れた際、不注意によって物件の設備・備品を壊したり、自分のタバコの不始末で火事を起こしたりしたら、当然ながらそれは買主の責任です。そのため、引き渡し前でもその修繕費などは買主の負担が必要になります。

危険負担を当事者双方で分割する場合でも、売主の過失が明らかな原因であれば、売主側で対処する必要があります。

地震や火事によって物件が全壊したり、津波や洪水によって建物が流されたりするなど、引き渡しが完全に不可能なケースもあります。こうなると取引自体が無効になるため、買主は契約を解除できます。

また、取引がなくなった以上、売主も目的物を復旧させる必要がなくなります。

4.危険負担|不動産の売買で注意すべきポイント

契約

不動産取引に臨む際は、必要書類やスケジュールの把握はもちろん、危険負担も考慮しなければなりません。

本章では、買主・売主の視点に分けて、売買時に気を付けるポイントを解説します。

4-1.不動産の買主が注意すべきポイント

不動産を購入する場合、はじめに特約条項で「債権者主義」に言及した記述がないことを必ずチェックしましょう。前述のとおり、買主側のリスクがあまりに大きいからです。

物件の引き渡し後に検査を行なう場合、検査前に何らかのトラブルで損傷・滅失すると、売主側の過失が原因かどうかわからないため、危険の移転時期はなるべく後回しにするのが理想的です。

「物件の引き渡し時」を最低ラインとし、可能であれば以下のような条項を付け加えて「検査合格時」に設定しましょう。

(例)本不動産が検査に合格した旨を買主から売主へ通知した時点で、引き渡しが完了するものと見なす。

また、債務を履行できない場合、契約を解除できる旨も規定しましょう。契約が続いている限り、債務自体は残ってしまうからです。

4-2.不動産の売主が注意すべきポイント

民法改正によって債権者主義の規定はなくなりましたが、特約条項で買主の責任を設定できます。しかし、万一の場合に本来なら消えるはずの債務が残ることになるため、買主から反発されやすいでしょう。

最悪の場合、これがきっかけで契約を断られてしまう可能性もあります。不動産の売却では物件が売れない限り、売主はただ時間や経費を浪費するだけの結果に終わってしまうため、慎重に検討しなければなりません。

スムーズに売却したいなら、改正後の民法が定めるルールに則って「物件の引き渡し時」に危険を移転するのが無難です。万が一の事態によって、引き渡し後に目的物が消失してしまっても、買主が危険を負担すべき旨をきちんと明記しておきましょう。

そして、買主が売主に行使できる以下の権利にも注意が必要です。

名称 内容
追完請求権 契約に適合した履行を求める権利
代金減額請求権 引き渡された目的物の品質や数量が契約に適合しない場合に、買主が代金の減額を請求する権利
解除権 契約を解除する権利
損害賠償請求権 故意や過失によって、他人の権利・利益を侵害した者に対して、損害の賠償を請求する権利

例えば、買主が追完請求や代金減額請求を行なった場合、解除権および損害賠償請求権は排除すると事前に規定しておけば、双方が大きな不利益を被ることなく、問題を解決しやすくなります。

また、危険負担で生じるリスクを想定し、あらかじめ火災保険や地震保険に加入しておくのも一案です。

まとめ

危険負担とは、売買などの双務契約において、債務者の責任ではない理由で一方の債務が履行不能になった際に、誰がリスクを負うべきかという問題のことです。

2020年(令和2年)の民法改正以降、危険負担にまつわる規定は債務者主義の見解で統一されたため、一方の債務がなくなった時点で、相手方は債務履行を拒絶できます。債務自体は契約解除をもって消滅するため、その点も押さえておきましょう。

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