マンション売却に確定申告は不要?必要な場合のタイミングや申告方法を紹介

マンションを売却すると場合によって確定申告が必要になります。
確定申告は自主的に行わなくてはいけないため、売却をしたら確定申告が必要かどうかをしっかりと見極めることが重要です。

確定申告が遅れると延滞税や無申告税、重加算税など、さらなる税負担が強いられるため忘れずに確認して置きましょう。

この記事では、マンション売却における確定申告の必要から、申告の時期、申告の方法を詳しく解説しています。
小難しそうに感じる確定申告ですが、最近ではネットからの申告でより簡単に行えるようになりました。記事を読んで確定申告を理解し、スムーズ進めて行きましょう。

マンション売却について基礎から詳しく知りたい方は『【完全版】マンション売却の注意点』をご覧ください。

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この記事の執筆者
竹内 英二
不動産鑑定士事務所および宅地建物取引業者である(株)グロープロフィットの代表取締役を務める。 不動産鑑定士、宅地建物取引士、賃貸不動産経営管理士、不動産コンサルティングマスター(相続対策専門士)、中小企業診断士。
(株)グロープロフィット

1.確定申告が「必要」「不要」のケース

マンション売却時には、場合によって確定申告が必要になります。
この章では、どういった場合に確定申告の義務が発生するのかを解説します。

不動産売却塾 コラム“確定申告とは?”

確定申告とは、所得が発生した場合に、それにかかる所得税の納税や還付を受けるための申告です。
あくまでも国税である所得税に関する申告ですが、その結果に応じて地方税である住民税が定まります。

1-1.譲渡所得が発生した場合は必要

売却で得た利益のことを譲渡所得といいますが、譲渡所得がある売却には確定申告の義務が発生します。
譲渡所得には、所得税と住民税(以下より、これらをまとめて譲渡所得税と呼びます)がかかり、確定申告を通して正しく納税する必要があるためです。

なお、譲渡所得は売却金額と同じではありません。
売却金額から取得費と、譲渡費用を差し引いた額が、譲渡所得になります。

取得費は、物件の購入かかった費用。譲渡費用は、物件の売却にかかった費用になります。
取得費は、物件の購入金額が含まれますが、減価償却により建物の価値は購入時より低く計算することになります。

建物取得費が減価償却される様子

マンションの譲渡所得計算における減価償却については『マンション売却に必要な減価償却計算の基礎知識を徹底解説!』をご覧ください。

1-2.特例を適用させたい場合は必要

不動産の売却には、税金を抑えることができる特例制度が様々用意されています。
それら特例を適用させるには、確定申告での申請が必要です。

特例には「譲渡所得が出た際に、譲渡所得を控除するもの」や「譲渡損失が出た際に、他の所得と損益を通算するもの」などがあります。

前項のとおり、譲渡所得税が出た場合はそもそも確定申告義務が発生していますが、譲渡損失が出た場合は申告義務がありません。
特例を利用したい場合は、譲渡損失が出た場合でも確定申告を行いましょう。

譲渡損失の図説

譲渡所得の詳しい計算方法は、本記事9章 「9.譲渡所得のシミュレーション」を参考にしてください。

住宅ローン減税など、住み替えをするときに利用できる減税制度とは?
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2.マンショ売却時の確定申告時期

次に確定申告の時期について説明します。
原則として不動産を売却した翌年の2月16日~3月15日の1ヶ月間となりますが、年により若干、日にちがずれることがあります。

2020年(令和2年)の申告期間は以下の通りです。

2020年2年2月17日(月)~2020年3月16日(月)

郵便等で送付する場合は、通信日付印により表示された日が提出日とみなされます。この日付が申告期限内となるよう、早めに送るようにしてください。

各市区町村では、確定申告の直前(例えば2月上旬ごろ)になると、税理士による無料相談が行われることが多いです。確定申告を行う際は、このタイミングに合わせて無料相談に出向くことをおススメします。

無料相談に行く前に、一度自分で申告書を書いて見ると「質問したい箇所」が明確になりますので、とても有効です。筆者も活用したことがありますが、地元の税理士が対面で丁寧に教えてくれ、疑問や不安がすべて解消されます。会社の有休を取得してでも行く価値がありますので、ぜひ無料相談を活用するようにしましょう。

3.マンション売却時の確定申告で提出する書類

確定申告には以下の書類が必要です。

  1. 譲渡所得の内訳書
  2. 確定申告書B
  3. 申告書第三表(分離課税用)
  4. 譲渡所得計算証明書
  5. 除票住民票
  6. 売却物件の売買契約書の写し
  7. 売却物件の購入時の売買契約書の写し
  8. 注文住宅の場合は建築当時の請負契約書
  9. 媒介報酬や印紙代などの金額が分かる書類
  10. 特例に必要な書類

「10.特例に必要な書類」は、下表を参考にご用意ください。

必要書類 3,000万円の特別控除 所有期間10年超の居住用財産を譲渡した場合の軽減税率の特例 特定の居住用財産の買換え特例 居住用財産の買換えに係る譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例 居住用財産に係る譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例
譲渡資産の登記事項証明書
買換え資産の登記事項証明書
新しい住民票
その他 買換え資産で築後年数要件に該当しない場合は耐震基準適合証明書等 買換え資産の住宅借入金の残高証明書 住宅借入金の残高証明書

税金の特例については、「10.確定申告で一般的に使われる3つの特例」をご覧ください。

4.マンション売却時の確定申告書類の流れと書き方

出典:国税庁

確定申告の書類は公的な書類です。勘で適当に書ける書類ではありません。確定申告の書類を書くための必要書類と手順をご紹介します。

4-1.書類を揃える

確定申告をするためには書類を揃える必要があります。確定申告の時期に間に合うように、余裕をもって用意してください。
確定申告の時期は毎年2月16日~3月15日までの一か月です。社会情勢によって、確定申告の時期が変わることもありますので、税務署に確認してください。

必要な書類は、自分で用意するものと、税務署から取り寄せるもので分けられます。
必要な書類は以下の通りです。

自分で用意するもの
  • マンションを売却した場合→売買契約書
  • 住み替えなどでマンションを購入した場合→売買契約書
  • マンション売却や購入にかかった費用の領収書→仲介手数料や印紙税
税務署から取り寄せるもの
  • 確定申告書B様式
  • 分離課税用の確定申告書
  • 内訳書

4-2.譲渡所得税を計算する

申告書類を記入するために重要な譲渡所得税を計算しましょう。

譲渡所得税を計算するには、税金が課税される部分である『所得』を計算する必要があります。
マンションの売却で得た所得を『譲渡所得』といいます。

譲渡所得とそれにかかる譲渡所得税の計算方法について詳しくは、本記事5章以降をご覧ください。

4-3.確定申告書類の書き方

確定申告書類の書き方は以下の通りです。

  1. 譲渡所得の「内訳書」を作成する
  2. 申告書B第一表「収入金額等と所得金額」を記入する
  3. 申告書B第二表を作成する
  4. 申告書B第一表の「所得から差し引かれる金額」を記入する
  5. 第三表の分離課税の「収入金額や所得金額」を記入する
  6. 第三表の「税金の計算」を記入する
  7. 第三表の「税金の計算、その他」を記入する

詳しい書き方は、国税庁のサイトを参考にしてください。

次の章からは、確定申告の書類作成に必要な項目の求め方についてご紹介します。

5.所有期間による譲渡所得の税率の違い

給与所得などの総合課税方式の所得は、他の所得都合算した合計の所得に対して累進税率が課されます。

一方のマンション売却による譲渡所得は分離課税と呼ばれるもので、他の所得と合算せずに、税額を計算します。

譲渡所得にかかる譲渡所得税(所得税と住民税)は、マンションの所有期間によって税率が異なる特徴あります。
以下が、所有期間による税率の違いです。

所有期間 住民税率 所得税率 合計
5年以下 9% 30.63% 39.63%
5年超え 5% 15.315% 20.315%

所有期間は、1月1日時点でカウントします。
売却した年の1月1日時点で、5年を超えて所有している場合は20.315%の税率が適用されます。

また2037年12月31日までは、所得税に復興特別所得税が上乗せされています。
本来の所得税は、所有期間5年以下で30%、5年超えで15%です。

6.譲渡所得税の計算をステップごとに解説

確定申告の書類を記入するには、譲渡所得を求めた上で、譲渡所得税まで計算しなければいけません。
譲渡所得の計算は、確定申告が初めての人には難しく感じるかもしれません。

この章では、譲渡所得や譲渡所得税の計算方法を、以下の順を負ってわかりやすく解説します。

  • 譲渡所得の計算式を理解する
  • 売却金額を求める
  • 取得費を求める
  • 譲渡費用を求める
  • 譲渡所得を計算する
  • 譲渡所得税を計算する

6-1.譲渡所得の計算式を理解する

まずは、譲渡所得をどのように計算するのかを確認していきましょう。
譲渡所得さえ計算できれば、5章で解説した通りに税率をかけて、簡単に譲渡所得税が求められます。

譲渡所得は、売却金額(売却金額)と同じではなく、以下のように計算します。

譲渡所得 = 売却金額 – 取得費 – 譲渡費用

計算式に含まれる各金額については、次の項目以降で詳しく解説します。
ここでは簡単に、「売却金額は売った時の金額」「取得費は購入にかかった費用」「譲渡費用は売却にかかった費用」のことだと認識しておきましょう。

6-2.売却金額を求める

マンションを売った金額が『売却金額』です。これは収入であり、所得ではありません。
売却金額(収入金額)から、次項で説明する取得費と譲渡費用を差し引いた額が、譲渡所得になります。

例えば、3,500万円で売却した物件であれば、売却金額も3,500万円になります。

6-3.取得費を求める

取得費は、売った物件を購入する際にかかった費用のことです。
マンション自体の購入金額はもちろん、購入時にかかった仲介手数料や交通費などが取得費にあたります。

【取得費に加えられるもの】

購入の際の仲介手数料
購入の際に支払った立退料・移転料
購入時の売買契約書に貼付けした印紙税
購入時の登録免許税や司法書士へ支払った登録手数料
購入時の不動産取得税
購入時の搬入費や据付費
購入時の建物等の取壊し費用

ただし、マンションの購入金額は当時の価格をそのまま使えるわけではありません。
建物の価値は年を経るに連れて下がってくるため、減価償却という仕組みで下落した価値を考慮した金額を算出します。

6-3-2.減価償却を考慮した取得費計算

マンションの正しい取得費を計算するには、購入金額から減価償却相当額を差し引く必要があります。
なお、減価償却は建物に対するもので、土地は計算から外さなくてはいけません。

計算は以下の順序で行います。

  1. 購入金額のうち建物部分の購入価額を求める
  2. 減価償却相当額を計算する
  3. 建物購入価額から減価償却費相当額を差し引く
  4. 計算した建物取得費と土地の金額を合算する

6-3-1.土地と建物の内訳価格

マンションなどは購入時の土地と建物の内訳価格が分からないケースがあります。
減価償却を行うには、購入当時の建物価格を求めることが必要です。

ここでは、土地と建物の内訳価格を求める方法として、「消費税から求める方法」と「標準的な建築価額から求める方法」の2つを紹介します。

消費税から求める方法

消費税から土地と建物の価格を逆算する計算式は以下の通りとなります。

建物価格 = 消費税 ÷ 購入当時の消費税率
土地価格 = 税抜総額 - 建物価格

消費税率は購入当時のものを用います。

消費税率の変遷は以下の通りです。

1989年(平成元年)4月1日~1997年(平成9年)3月31日・・・3%

1997年(平成9年)4月1日~2014年(平成26年)3月31日・・・5%

2014年(平成26年)4月1日~2019年(令和元年)9月30日・・・8%

2019年(令和元年)10月1日~・・・10%

標準的な建築価額から求める方法

前節の消費税から求める方法は、1989年(平成元年)3月31日以前に購入している場合や、個人から中古マンションを購入している場合には使えません。

消費税から求める方法が使えない場合には、標準的な建築価額から求める方法を利用します。建物の標準的な建築価額とは、当時の新築工事費の相場の単価です。

PDF国税庁の記載例」の資料(P41~43【参考2】)に単価が以下のように開示されているので、その数値を用います。

出典:国税庁「PDF令和元年分 譲渡所得の申告のしかた(記入例)

建物の購入価額は、新築を購入した場合と、中古を購入した場合で計算方法を分けます。

(新築を購入した場合)
建物購入価額 = 新築時の建築単価 × 床面積※

(中古を購入した場合)
建物購入価額 = 新築時の建築単価 × 床面積※ - 新築時から購入時までの減価償却費相当額

※ マンションの場合は、床面積として登記簿謄本の専有部分の面積を用いていただいても問題ありません。

建物購入価額を求めることができたら、購入時から売却時までの経過年数に応じた減価償却計算を行います。

中古を購入した場合は、以下の3ステップで売却時の取得費を求めます。

【建物の標準的な建築価額を使った取得費の求め方の手順】

  1. 建物の標準的な建築価額表により「新築時」の建物価格を求める。
  2. 新築時の建物価格を購入時まで減価償却を行い、「購入時」の建物価格を求める。
  3. 購入時の建物価格を売却時まで減価償却を行い、「売却時」の建物取得費を求める。

6-3-2.減価償却相当額の計算

減価償却費相当額の求め方は、以下の通りです。

減価償却費相当額 = 建物購入価額 × 0.9 × 償却率 × 経過年数

減価償却費相当額は建物の購入価額の95%が限度額です。

償却率については建物の構造によって以下のように数値が定められています。

構造 非事業用の償却率
木造 0.031
木造モルタル 0.034
鉄骨造(3mm以下) 0.036
鉄骨造(3mm超4mm以下) 0.025
鉄骨造(4mm超) 0.020
鉄筋コンクリート造 0.015
鉄骨鉄筋コンクリート造 0.015

経過年数は築年数ではなく、購入の引渡から売却の引渡までの所有期間です。ただし、経過年数は、長期譲渡所得や短期譲渡所得を求めたときの所有期間と求め方が異なります。

経過年数の求め方は以下の通りです。6ヶ月以上の端数が出た場合は1年と計算し、6ヶ月未満の端数が出た場合は切捨てで計算します。

(経過年数の例)

1996年3月~2019年6月・・・23年3ヶ月は「23年」として計算

2001年2月~2019年10月・・・18年8ヶ月は「19年」として計算

尚、非業務用(居住用)不動産においては、中古不動産を購入して売却する場合でも新築と同じ計算方法を用います。計算の中に築年数の概念はなく、単純に建物購入価額を構造に応じた償却率で経過年数(所有期間)の分だけ減価償却を行います。

不動産の減価償却については、こちらの記事もご参照ください。

不動産の減価償却の計算方法は?事業用と居住用での違いを解説

6-3-3.取得費が不明の場合の概算取得費について

取得費が分からない場合は、概算取得費というものを用います。概算取得費は、譲渡価額(収入金額)の5%です。

概算取得費 = 譲渡価額 × 5%

尚、概算取得費は法的に強要された計算方法ではないため、購入時の売買契約書を紛失した場合でも、合理的な計算方法で取得費を求めることはできます。

例えば、以下のような資料を準備することで税務署に対し取得費を証明できる場合があります。

【取得費が不明の場合に取得費の参考となる資料】

  1. 新築物件の場合、当時の販売ディベロッパーから購入当時の売買契約書の写しをもらう
  2. 中古物件の場合、当時仲介してくれた不動産会社や個人売主から購入当時の売買契約書の写しをもらう
  3. 通帳の出金履歴から購入額を推測する
  4. 住宅ローンの金銭消費貸借契約書から購入額を推測する
  5. 抵当権設定額から購入額を推測する
  6. 一般財団法人日本不動産研究所が公表している市街地価格指数から土地の取得費を算定する
  7. 一般財団法人建設物価調査会が公表している着工建築物構造別単価から建物の取得費を算定する

売買契約書を紛失し、上記のような資料を揃えることができる場合には、一度、税務署に相談するようにしてください。

6-3-4.土地のみ取得費が分からない場合

相続で引き継いだ土地の上に注文住宅を建てているような場合、土地だけ取得費が分からない場合があります。

土地だけ購入価額が不明の場合、土地の取得費は以下の計算式で求めます。

土地の取得費 = (譲渡価額 - 建物取得費) × 5%

土地と建物、それぞれの取得費を合算して取得費を求めます。

取得費 = 土地の取得費 + 建物の取得費

6-4.譲渡費用を求める

譲渡費用とは、仲介手数料や印紙税、測量費など、売却に要した費用のことです。譲渡費用になるものとしては、一般的に以下のようなものがあります。

  1. 土地や建物を売るために支払った仲介手数料
  2. 印紙税で売主が負担したもの
  3. 貸家を売るため、借家人に家屋を明け渡してもらうときに支払う立退料
  4. 土地などを売るためにその上の建物を取り壊したときの取壊し費用とその建物の損失額
  5. 既に売買契約を締結している資産を更に有利な条件で売るために支払った違約金(例えば土地などを売る契約をした後、その土地などをより高い価額で他に売却するために既契約者との契約解除に伴い支出した違約金のこと)
  6. 借地権を売るときに地主の承諾をもらうために支払った名義書換料など

ただし、譲渡費用に認められるものは限定的であり、売却時に支払った支出は全て譲渡費用として認められるわけではありません。
例えば、以下のような費用が譲渡費用とならないものとされています。

【譲渡費用として認められない支出】

  • 抵当権抹消費用
  • 遺産分割のために要した支出
  • 移転先家屋の購入費、修繕費、移転費用等
  • 譲渡資産の維持管理費等
  • 引越代、飲食代、交通費、宿泊費等

6-5.譲渡所得を計算する

取得費と譲渡費用が正しく計算できれば、あとは売却金額から際引いて譲渡所得が計算できます。

例えば、売却金額が3,500万円、取得費が2,500万円、譲渡費用が350万円の場合は、譲渡所得650万円となります。

譲渡所得 = 3,500万円 – 2,500万円 – 350万円 = 650万円

6-6.譲渡所得税を計算する

本記事5章では、譲渡所得にかかる税金は住民税と所得税(復興特別所得税を含む)だと解説しました。
このうち確定申告では、所得税を計算して記入します。

単純に、譲渡所得に対して所得税だけを計算するのではなく、復興特別所得別税の記入も必要なのでそれぞれ計算します。
以下の税率表を見ながら計算をしていきましょう。

所有期間 住民税 所得税 復興特別所得税
5年以下 9% 30% 0.63%
5年超え 5% 15% 0.315%

前項で扱った計算例のように、譲渡所得650万円でそれぞれ計算してみましょう。
所有期間は5年超えとします。

  • 所得税 = 650万円 × 15% = 975,000円
  • 復興特別所得税 = 650万円 × 0.315% = 20,475円
  • 住民税 = 650万円 × 5% = 325,000円

住民税は税金算出のため計算しましたが、確定申告書類に記入するのは、所得税と復興特別所得税です。

7.譲渡所得のシミュレーション

この章では譲渡所得のシミュレーションを行います。尚、売却した不動産の条件は以下のものとします。

【売却した不動産の条件】

件種別:マイホーム(非事業用)
建物構造:木造(耐用年数33年、償却率0.031)

売却日:2019年8月に売却引渡
売却価格:3,500万円
固定資産税精算金:4万円
仲介手数料:111万円
印紙税:1万円

購入日:2000年6月に新築竣工
購入価額:5,000万円
内訳
 土地購入価額:2,000万円
 建物購入価額:3,000万円

【譲渡所得の計算】

最初に譲渡価額(収入金額)を求めます。

譲渡価額 = 売却価格 + 固定資産税精算金
     = 3,500万円 + 4万円
     = 3,504万円

次に取得費を求めます。
まず、所有期間が19年2ヶ月(2000年6月~2019年8月)であるため、経過年数は19年です。

減価償却費は以下の通りです。

減価償却費 = 建物購入価額 × 0.9 × 償却率 × 経過年数
      = 3,000万円 × 0.9 × 0.031 × 19年
      = 1,590.3万円

取得費は以下のようになります。

取得費 = 土地取得費 + 建物取得費
= 土地購入価額 + (建物購入価額 - 減価償却費)
= 2,000万円 + (3,000万円 - 1,590.3万円)
= 3,409.7万円

譲渡費用は以下の通りです。

譲渡費用 = 仲介手数料 + 印紙税
     = 111万円 + 1万円
     = 112万円

譲渡所得 = 譲渡価額 - 取得費 - 譲渡費用
     = 3,504万円 - 3,409.7万円 - 112万円
     = ▲17.7万円

上記のマイホーム売却においては、譲渡損失が発生し税金はかからないことになりますので、特例を使わない限り、確定申告は不要です。

8.確定申告で一般的に使われる3つの特例

居住用財産と呼ばれるマイホームを売却したときは、制度上、以下の5つの特例を利用することができます。

節税の特例

  1. 3000万円特別控除
  2. 所有期間10年超の居住用財産を譲渡した場合の軽減税率の特例
  3. 特定の居住用財産の買換え特例
  4. 税金還付を受けることができる特例

  5. 居住用財産の買換えに係る譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例
  6. 居住用財産に係る譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例

このうち、「3.特定の居住用財産の買換え特例」と「5.居住用財産に係る譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例」の2つの特例についてはほとんど利用されるケースがありません。

そこでこの章では現実的に利用される可能性がある「1.3000万円特別控除」「2.所有期間10年超の居住用財産を譲渡した場合の軽減税率の特例」「4.居住用財産の買換えに係る譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例」の3つの特例に絞って解説します。

8-1.「3,000万円特別控除」

3,000万円特別控除とは、譲渡所得から3,000万円を引いてくれる特例です。使いやすく、節税効果も高い特例となります。

譲渡所得 = 譲渡価額(収入金額) - 取得費 - 譲渡費用 - 3,000万円

3,000万円特別控除を利用すると、ほとんどのケースで譲渡所得はゼロ(マイナスはゼロとみなされる)となり、税金は発生しません。

3,000万円特別控除を利用するには、居住用財産の要件を満たすことが必要です。居住用財産は、以下のいずれかの要件に該当した不動産になります。

【居住用財産の定義】

  1. 現に居住している家屋やその家屋と共に譲渡する敷地の譲渡の場合
  2. 転居してから3年後の12月31日までに、居住していた家屋やその家屋と共に譲渡するする敷地の譲渡の場合(この間に貸付や事業用に供していても適用となる)
  3. 災害などにより居住していた家屋が滅失した時は、災害のあった日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに、その敷地だけ譲渡する場合
  4. 転居後に家屋を取り壊した場合には、転居してから3年後の12月31日までか、取り壊し後1年以内か、いずれか早い日までに譲渡する場合(取り壊し後にその敷地を貸し付けたり、事業の用に供したりすると適用外となる)

アパートやワンルームマンション等の収益物件は居住用財産ではないという点がポイントです。

3,000万円特別控除を適用する際は、「譲渡所得の内訳書」の「4.譲渡所得金額の計算をします。」の「D特別控除額」の欄に30,000,000円と記載します。

譲渡所得がマイナスとなった場合には、「E譲渡所得金額」は「0円」と記載するようにしてください。
また、「譲渡所得の内訳書」の中に特例適用条文を記載します。3,000万円特別控除の特例適用条文は「措置法35条1項」です。

尚、買い替えで購入物件に住宅ローン控除を利用する場合には、同時に売却物件で3,000万円特別控除を利用することができないことになっています。

参考:国税庁タックスアンサー「No.3302 マイホームを売ったときの特例

3000万円控除については、こちらの記事で詳しく解説しています。

居住用財産の3,000万円特別控除とは

8-2.「所有期間10年超の居住用財産を譲渡した場合の軽減税率の特例」

3,000万円特別控除を適用しても、譲渡所得がプラスになる場合は、「所有期間10年超の居住用財産を譲渡した場合の軽減税率の特例(以下「軽減税率の特例」と略)」を利用します。

軽減税率の特例の適用要件は、「居住用財産で所有期間が10年超となるもの」が対象です。軽減税率の特例を適用すると、税率は以下のようになります。

譲渡所得※ 所得税率
6,000万円以下の部分 10%
6,000万円超の部分 15%

※ 譲渡所得は、3,000万円特別控除の適用後の譲渡所得が対象です。

軽減税率の特例を利用する場合、「譲渡所得の内訳書」のに特例適用条文を記載します。軽減税率の特例の特例適用条文は「措置法31条3項」です。 また、軽減税率の特例も3,000万円特別控除と同様に、買い替えで購入物件の住宅ローン控除と同時に利用することができないことになっています。

参考:国税庁タックスアンサー「No.3305 マイホームを売ったときの軽減税率の特例

8-3.「居住用財産の買換えに係る譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例」

居住用財産の買換えに係る譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例(以下、「譲渡損失の買換え特例」と略)とは、売却で生じた譲渡損失を他の所得と損益通算することで、税金の還付を受けることができる特例です。

初年度に控除しきれなかった残額があるときは、その残額をその翌年から3年間に繰り越して各年の給与、事業所得等の総所得金額から控除できるようになっています。

譲渡損失の買換え特例は、あくまでも任意ですので、譲渡損失が少なく手続きの割に効果が微妙と感じる方は利用しなくても問題ありません。譲渡損失の買換え特例を利用しない場合には、確定申告自体が不要です。

譲渡損失の買換え特例を適用する場合、「譲渡所得の内訳書」ではなく、以下の書類に譲渡価額や取得費等を記載していきます。

書式は変わりますが、譲渡所得の計算方法については、譲渡益が生じる場合と同じです。 譲渡損失の買換え特例は、住宅ローン控除と併用が可能です。 例えば、以下のようなケースで住宅ローン控除と併用した場合の考え方を示します。

(条件)

譲渡損失:▲2,500万円
給与所得:毎年600万円

(譲渡損失の買換え特例の適用)

1年目 損益通算 600万円 - 2,500万円 = ▲1,900万円
2年目 繰越控除 600万円 - 1,900万円 = ▲1,300万円
3年目 繰越控除 600万円 - 1,300万円 = ▲700万円
4年目 繰越控除 600万円 - 700万円 = ▲100万円 (打切り) 5年目 住宅ローン控除の開始(5年目からのカウントとなる)

上記の例では、1~4年目は所得が全てマイナスですので、会社で源泉徴収されていた税金の全額について毎年還付を受けることができます。

一方で、住宅ローン控除については購入資産に居住した年以降の「10年間」が適用期間です。上記の場合、当初4年間は譲渡損失の買換え特例によって控除する所得税がそもそもありません。
5年目以降から所得税が発生しますので、住宅ローン控除が利用できるのは、5~10年目の合計6年間ということです。

譲渡損失の買換え特例を適用するには、売却物件は「所有期間が5年超」、購入物件は「10年以上の住宅ローンを組むこと」等の要件があります。
国税庁のホームページを良く確認した上で、特例を適用できるかの判断をするようにしてください。

参考:国税庁タックスアンサー「No.3370 マイホームを買換えた場合に譲渡損失が生じたとき(マイホームを買換えた場合の譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例)

まとめ

いかがでしたか。
不動産売却の確定申告について詳しく解説してきました。

不動産売却では、「譲渡益が発生している」または「特例を利用する」場合に確定申告が必要です。確定申告を行うか否かは、まずは譲渡所得を計算することが必要です。

確定申告は、「譲渡所得の内訳書」を最初に完成させることがコツです。居住用財産を売却したときは、特例を利用できるケースがあります。特例については、要件を良く確認した上で、利用してください。

確定申告は、忙しくて時間がなかったり、自分で手続きするのが不安な場合には税理士に依頼することも可能です。
自分で手続きを行う方は、ぜひともこの記事を参考に、「不動産売却の最後の仕事」ともいうべき確定申告をスムーズに終わらせてくださいね。

また、不動産売却をお考えの方はNTTデータグループが運営する「不動産売却 HOME4U」のご利用をご検討だくさい。

この記事のポイント まとめ

確定申告を「する」「しない」の判断は?

確定申告を行うかどうかの判断するポイントは、以下の通りです。

  • 譲渡所得を計算
  • 売却益が出た場合は確定申告をする
  • 損失が出た場合でも、特例を使いたい場合は確定申告をする

詳細は「1.確定申告を「する」「しない」どう判断すればいい?」をご一読ください。

確定申告の時期は?

確定申告をする時期は原則以下の通りです。

  • 不動産を売却した翌年の2月16日~3月15日の1ヶ月間

※年によって若干の時期のずれがあります。
詳細は「2.確定申告の時期」をご一読ください。

確定申告で提出する書類は?

確定申告に必要な書類は以下の通りです。

  1. 譲渡所得の内訳書
  2. 確定申告書B
  3. 申告書第三表(分離課税用)
  4. 譲渡所得計算証明書
  5. 除票住民票
  6. 売却物件の売買契約書の写し
  7. 売却物件の購入時の売買契約書の写し
  8. 注文住宅の場合は建築当時の請負契約書
  9. 媒介報酬や印紙代などの金額が分かる書類
  10. 特例に必要な書類

詳細は「3.確定申告で提出する書類」をご一読ください。

所有期間による譲渡所得の税率の違いは?

譲渡所得は所有期間によって税率が異なります。
税率の違いは以下の通りです。

  • 長期譲渡所得 15%
  • 短期譲渡所得 30%

売却した年の1月1日時点で所有期間が5年を超えるものが「長期譲渡所得」です。
詳細は「5.所有期間による譲渡所得の税率の違い」をご一読ください。